この男は銀行強盗だ。私はその男を最後まで乗せて、車から降ろした後、どこか遠くに逃げてから警察に通報することにした。目的地までがすごく長く感じる。

しばらく走っていると私はあることに気づいた。後ろの座席に座っている男の顔を前の運転席の鏡で見るなら、右と左を逆にする必要はないのではないか。

だからこの男は左目に傷がある人だ。この男は銀行強盗ではない。その時である。

「運転手さん。小さい頃に怪我でもしたのですか?」
「はい。小学生の時に」
「どうしたんですか」
「体育館の裏で、日常的に、複数の同級生に暴行されたんですよ」
「いじめじゃないですか」
「結局担任の先生も学校も、もみ消しましたね。いじめは確認できなかったと」
「……」

さらに男は言った。

「左目に傷がありますね」
「はい。そうなんですよ……お客さん。もう目的地ですよ」
「ありがとうございました」
「三千円です」
「はい」

そう、傷は私の右目にある。あの男も私と同じ間違いをしたのだ。ちなみにうちのタクシー会社の制服は黒帽子に黒っぽい服である。助手席には車のトランクに入れ忘れた私のカバンがある。

まさかこの中に五千万円が……。カバンを開けてみると自分のものが入っているだけだった。ははは。馬鹿らしい。少しは涼しくなったかな。

しかし私は察しが悪いのでこの時大事なことに気づいていなかったのだ。カバンをトランクに戻そうとしたとき、ナンバープレートを見て、私は思い出した。

銀行強盗はナンバープレート333のタクシーで逃げた。つまり客も私も犯人ではないということは、この車のどこかに隠れているはず……しかしもう遅かった。トランクがゆっくり開いた。