察しが悪いね、司令官

いつもの通り、憲兵司令官である私は、軍の任務で、朝七時におよそ千七百人集まる市民の前で演説する。この小さな独裁軍事国家では、千七百人という人数は全体の五十分の一である。

演説では、いかに現在の軍最高指導官が偉大であるかということを国民の意識に擦り込み、さらに我が国はやがて世界をリードする軍事大国になるとのヴィジョンを述べるのだった。ただし余計なことをしゃべらないように、私と同じ軍幹部が一人横にいる。

そして、私の部下と横にいる将校の部下が、二十人ほど囲んでいる。そうかと言って、二十人の兵士を買収するくらいは簡単なことだろう。

七時三十分に演説が終わると、今日の仕事は、殺人犯で逮捕された政治家の取り調べだ。とは言っても、その政治家は正義感が強い男で、政府にとって都合が悪いから、殺人犯にされたのだった。

実は現在我が国の政治は賄賂が横行している。私の仕事はその男の言うことをすべて、狂人の戯言だと耳を貸さずに、ただ形だけの面会、取り調べ内容の最終確認をするだけだった。

「あれは正当防衛だったんだ!」
「だが証拠がない」
「くそ! だから俺と一緒にいた憲兵に聞いてくれと言っているだろう」
「その憲兵はお前が殺したと言っている」
「それより俺は見たんだ。この国のトップが汚職をしているところを」

部屋は暗いので、ボロボロな机の上には炎が煌々と燃えるランプが置いてあった。壁には不等辺五角形のかたちをしたこの国の地図が貼ってある。

「そんなことがあるはずないだろう」

その時である。その政治家が、椅子と自分の身を縛り付けてあった縄をほどいた。