第十一章 インフルエンザ
私は静かに寝室を出て、リビングのヒーターを点けるとソファーにごろんと横になった。普段は聞こえない時計の音が耳に煩い。
旦那は寝ぼけていただけだろうか。それとも意思をしっかり持っての行動だろうか。どちらにせよ気味が悪かった。
十年近くに及ぶ付き合いの中で、旦那が私の身体を激しく求めていると思ったことは一度もない。デートの終わりには必ずセックスをしたが、それは儀式のようなものだった。
性欲に任せて、そうしたいからするのではなく、お互い気持ちを確かめ合うためにそういう行為をした。求められるという優越感を味わいたいが為に、セックスにあまり乗り気ではない風に演じてみたこともあった。
するとどうだろう。彼は行為を途中でやめてしまうではないか。やはり旦那は本当にセックスがしたいわけではない。
ただふたりの仲を取り持つのにセックスを利用しているだけなのだ。きっと今もそうに違いない。
一ヶ月以上セックスをしないのは、ふたりの間では初めてのことだった。旦那は確かめたいのだ。私の気持ちを。
近頃の私は甘えた態度を取ることはおろか、ろくに話をしようともしない。そんなふたりの間の問題を解決するための話し合いをすることを放棄して、セックスによって関係を繋ぎとめられると彼は思っているのだ。
私は呆れ果て溜め息をついた。大きいソファーを選んで良かった。