病棟業務
外科医の仕事は手術だけではない。手術があれば術前術後の患者さんがいるわけで、手術前後に責任を持つのが外科医の使命である。
緊急などの場合を除いて、患者さんは手術の数日前から前日に入院する。僕はまだ外来を担当していないため、患者さんが入院してきた日に初顔合わせとなる。
「失礼します」
病室のドアをノックして中に入る。
(どんな人なんだろう)
初対面の瞬間はいつも緊張する。患者さんについての基本的な情報は事前にカルテで確認している。年齢、性別、仕事、家族構成、身長、体重、手術に至った経緯などあらゆる情報を集めて、その患者さんの人物像をイメージする。
しかし、人となりは実際に会って話してみないと分からない。
「初めまして、外科の山川です。入院中、担当させていただきますのでよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「明日が手術ですね。体調はいかがですか」
「特に変わりないです」
「それは良かったです」
ここまではお決まりの会話である。この最初の会話で表情や口調を観察して、患者さんのキャラクターを見極める。
品のある人、神経質な人、病院嫌いな人、お喋り好きな人など、なんとなくキャラが浮かび上がってくるものである。キャラクターはさまざまだが、全ての患者さんに共通していることがある。それは不安を抱えているということだ。
不安を全面に出す人も、強がっている人も、平静を装っている人も、多かれ少なかれ不安を抱えている。僕はこの不安を少しでも和らげようと次の言葉を繰り出す。
「お孫さんですか?」
病室に置かれていた写真を見て尋ねる。
「そうです。来年の4月に小学校に上がるんです」
「元気になって入学式に行けたらいいですね」
「行けるかな?」
「きっと大丈夫ですよ。こうして座っている姿勢もすごくいいし、乗り切れる体力は十分にありますよ」
「最近、ヨガ教室に通い始めたの」
「それで姿勢がいいんですね」