第一章 三億円の田んぼ

「何が名誉だって?」
「草取りが名誉なほど、価値がある田んぼなんですな」

高橋警部補が、田んぼを見渡しながら、うなずいた。
車で、田んぼまで送ってもらったと言う。三人で草取りをしていて、トオルが見つけたらしい。

「ここ、凄くいい田んぼなんだけど、草取りは草取りなんだよね。少しやったら飽きちゃって。腰も痛くなったから、あぜに上がってブラブラしてたら、裏手の角が凹んで見えたのよ。それで、見に行ってみたら、稲が倒れてたってわけ」

「やっぱり、あんた、さぼってたんだね。まったく、こんな遠くまで、草取りしに来たのに、何やってんだい」

タミ子が、トオルの頭を後ろから、小突いた。
トオルは、大きな肩をすくめて見せた。苦笑いしている。

「それで、こりゃ大変だって、思ってさ。急いで、ヨーコさんに教えたわけ」
「で、私が秀造さんに連絡しました」

それが、一時間ほど前のことだった。

秀造が、三人の話の後を、引き取って続ける。

「ちょうど、この手紙を受け取ったところでした。半信半疑で、どうしたものかと悩んでるとこに、電話があったんです。ちょっと変だなとは思いましたが、急いでここに来てみると、この有様でした」

「それで、通報されたんですな?」
「そうです、高橋警部補。警察に知らせるな、とは書いてなかったので」
「賢明な判断です」

鑑識官の経過報告では、犯行は夜明け前、まだ暗いうちだろうと言うことだった。