第一章 三億円の田んぼ
(二)
「こちらは葛城警視。本庁からの出向。自分は、高橋。警部補です」
「ありがとうございます。こちらの任期はいつまでですか?」
富井田課長が、玲子に聞いてきた。
「あと二年半くらい」
「そうですか。それなら、僕と同じくらいだ。どうぞ、トミータと呼んで下さい。それにしても、田んぼに毒まくなんて、ホントやることが人間の屑です。田んぼの被害はもちろん、環境汚染にもなりますし」
言い終えるなり、今度は第一発見者の三人に気づいた。
「あれっ?! ヨーコさんじゃないですか」
今度は、三人に駆け寄った。どうやら知り合いらしいが、落ち着きのない男だ。
「なんと、トオルさんとおかあさんまで。こんなところで、何をしてるんですか? 危険だし、捜査の邪魔です。さっさと帰ってください」
「わたしたち、第一発見者なんです」
葉子の言葉に、富井田課長が、目を丸くした。一瞬、言葉に詰まる。
「草取りに来て、たまたま見つけたんです。それよりトミータさんこそ、なぜ、ここに?」
「脅迫状の話を、聞きつけまして。心配になったんで、真っすぐここに飛んで来ました」
「そうかい、あんたも心配性だねえ」
「いや、おかあさん。それほど、でもないです」
富井田課長は、恥ずかしそうに頭をかいた。
そこへまた、ドタバタと足音が近づいて来た。今度は、赤ら顔の中年男だ。
所轄の兵庫県警播磨警察署の捜査一課長、勝木道男。この捜査の責任者だ。中年で、中背。筋肉質のがっちりした体格だが、下腹が緩んでいる。
「警視、こないなとこで、何してはるんです?」
少し息を切らし、額に汗を浮かべている。
「第一発見者から、事情を聴取していた」
「そないな些事(さじ)は、我々に任せて下さい」
余計なことをするなと、顔に書いてある。