《見世物小屋・前》
大勢の見物客が看板を見上げている。
看板には、綱に足を掛けた男が二人の女の足をつかみ、片手に一人ずつぶら下げた絵が描かれている。
呼び込み「今、大評判の大坂下りの早竹虎吉の曲芸。見ないで死ぬのは江戸っ子の恥、見れるのはあと一〇日、さあ入った入った!」
と叫んでいる。その脇を、太郎坊を肩車した安兵衛が入って行く。
《同・中》
超満員の熱気の中、舞台中央では、歌舞伎衣装を身にまとった男が、足で長い竿を支え、竿に猿を乗せる石橋(しゃっきょう)と呼ばれる芸や手の甲で回る独楽が突然消える芸が行われている。目を瞠る太郎坊。そして安兵衛。
「早竹屋~」「虎吉!」の掛け声が掛かる。
大勢の見物客の後ろで太郎坊を肩車した安兵衛が大声で、
安兵衛「太郎坊、今度の仲間会の速足比べでは必ず優勝するからな。そしたらその賞金で、太郎坊に立派な独楽を買ってやるからな。おっかあにもな」
太郎坊「(嬉しそうに)うん」
《商家の並ぶ通り(日替わり)》
「九軒仲間会早足比べ」の幟(のぼり)が青空の下あちこちに靡(なび)く中、安兵衛と次郎吉が疾風のごとく走っている。
二人の後ろを安兵衛や次郎吉と同じように飛脚走りの男達が走っていく。
褌(ふんどし)は亀の子腹掛け、それに「仲間会」の朱書きのある白鉢巻きを締めている。腹掛けには夫々の飛脚問屋の名前が書かれている。道端の町人が、
町人1「仲間会だ」
町人2「大坂屋の次郎吉や」
の声援を送っている。
八左衛門も怒鳴っている。
八左衛門「それ、行け安兵衛!」
《武家屋敷の白壁に囲まれた通り》
次郎吉を遠目に見ながら走っている安兵衛。
角を曲がると、次郎吉の姿が見えなくなり、安兵衛がきょろきょろ周りを見回す。
安兵衛「雲隠れだ!」