第3章 すれ違いの過去 

夕海と付き合っていた頃の夏人は自由奔放な夕海のことでいつもやきもきしていた。彼女が夏人のことを好きなのはもちろん分かっていたが、他にも男友達が多く、とにかく夕海はもてた。

彼女は夏人に「沢山、男友達がいてもそれはみんな友達で、恋人の夏人は特別なのよ」といつも言うのだが、夏人は自分が人とうまく付き合うことができないことを自覚していることもあり、夕海の言葉を素直に信じることができなかった。自信もなかった。

ある時、同僚の川村が夏人のところに来て「山本夕海の本命は部内1イケメンの山野らしいぞ。お前はきっと当て馬なんだよ」と言う。夏人は自信のなさも手伝いとても不安な気持ちになった。確かに何人かいる夕海の取り巻きと違い山野は夕海と2人で親しげに話していることが多いという事実が夏人の不安を増幅した。

でも、夏人は夕海に事の真偽を確かめるような思い切った行動は取れなかった。そのような状況のなか、高円寺と吉祥寺を行き来する2人の付き合いはその後も同じようなペースで続いていた。

3月初旬、寒い日と少し暖かい日が交互に来るような時期だった。夏人は年度末で仕事が立て込み夕海と会う時間もあまりない状況で、2泊3日の熊本出張に出かけた。

ようやく仕事の目処も立ち、熊本からの飛行機で羽田空港に着いた時に、夕海の携帯電話に「お土産買ってきたよ。今から会えない?」とショートメッセージを送り品川に出た。品川から山手線で渋谷に向かっている間、携帯電話を手に持って夕海からの返信を待ったが返信はなかった。

時間は午後9時過ぎ、普段ならすぐにショートメールが戻ってくる時間帯だ。夏人は新宿まで行って高円寺の自分のアパートに帰ってしまおうかとも思ったが、やはり渋谷で降りて井の頭線に乗り換えて夕海のアパートに泊まりたいと思った。

久しぶりに一緒のベッドに入ることを想像した夏人は下半身に硬直を感じた。井の頭線に乗る前に今度は夕海に電話してみたがやはり応答はなかった。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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