前方から来たトラックが止まった。運転していた男(地方人か徴用兵のようだ)が、私に向かって言った。
「あなた方はこれから前線に行くのか? あそこは全く地獄だ。連隊長も死んだ。あんな所、行けるもんじゃない」
逃げ帰ってきたような怯えた眼差しと身振りで言った。
中隊は行進を始めた。不安と、早く連隊主力の決戦地に到着したいという焦りが入り混じり、武者震いにも似た感覚をえた。
九月一日。その日は一日中暑く、夜になってもその暑さが残り、分解搬送の機関銃隊の行軍は厳しかった。
夕方近く、林の前に小川が流れる小さな集落を通過。そこには野戦病院があり、負傷兵の姿がちらほら見えた。日が暮れた。旅団司令部に着く。
前方の山の背後からは、潮騒のような銃声が絶え間なく続いていた。
ここは東林街という。山は蘆山(ろざん)。詩にある「東林寺の僧に聞く」の舞台も、この付近ではないだろうか。疲れ切った身体に神経の冴えを感じつつ、そんなことを考えながら、小道の崖に身を横たえて、うつらうつらとまどろんだ。
はっと気が付くと、頭上の松林の間に、夜が白み始めていた。司令部からN少尉が走り出てきた。
「しまった、夜が明ける!」
彼は旅団副官で、昨日から我々を誘導していた将校である。
急ぎ鳥が飛び立つように、前進、いや急進を開始。大隊長の指揮の下、九、十、十一中隊、そして私たちの第三機関銃中隊が進む。当然、馬匹や糧秣などは遅れているため、戦闘即応の徒歩兵のみである。
突然、銃声が激しく近づいてくる。まだ陽は出ていない。小川の中を、姿勢を低くして接近──先頭が止まった。