【前回の記事を読む】高速道路で車4台が絡む事故に巻き込まれ、父は即死した。当時小学6年生だった息子には、さらなる悲劇が襲い掛かり……
第1章 家庭教師
「ちょっと呼んでくるわね」
「おまえ、気が早いんだよ」
幸恵は2階に上がっていった。
幸恵の言うように、悠太ならうまくいくかもしれない。数学が得意のようだから、地頭はいいはずだ。腰を据えて1年勉強すれば、夢を叶えさせてやれるかもしれない。それに、渥美の家から隼人に続いてT大生が出るのはうれしい。一人娘の美咲はあまり期待できそうもないし、それに女の子だからか、いまひとつ力が湧かない。
ほどなく二人は下りてきた。
隼人はソファから立ち上がって悠太と並んでみた。
「こうしてみると肩の高さは変わらないな」
幸恵が離れた位置から二人を見比べて、
「頭の天辺(てっぺん)は悠太のほうが高いわね」
隼人が改めて悠太の顔を見ると、目の位置が少し負けていた。
「悠太の髪はコシがあるけど、兄さんは頭頂部が薄いのよ」
そう言って、幸恵は笑った。
「180センチはあるの?」
「178です」
「伯父さんは昔180あったんだよ。ちょっと縮んだかな」
「そのかわりお腹周りがだいぶ貫禄がついたわね」
幸恵は笑いながら言うが、そのとおりだった。
久しぶりに着た礼服は上下とも窮屈で、ウェストの鍵ホックを掛けるのがやっとだった。
悠太は幸恵の隣に腰を下ろした。
「T大に再挑戦するんだって?」
悠太は肩を竦(すく)め軽く頷(うなず)いた。
「入学試験はどうだったの?」
「数学がだめでした」
悠太はそう言って、唇を噛(か)みしめた。
「数学は得意科目だったんじゃないの」
「ええ……。思ったより問題が難しくて……」
「他の科目は?」
「国語は元々苦手で、理科と英語はまずまず。でもやっぱり数学が原因だと思います」
「A高校からT大には毎年何人くらい入るの?」
隼人は話を変えた。
「年によってだいぶ違うわよね。今年は五人?」
幸恵が悠太に確かめる。
「多いときで十人くらい、普通は五~六人」
「お母さんが勉強を見てやってと言うんだけど、どう? 見るといっても、進路相談とか勉強の仕方みたいな話になると思うけど」
「実際に教えてもらえるといいわよね」
幸恵は悠太に顔を向けて言った。
「教えるとなるとなあ……」
「美咲ちゃんに英語でも数学でも教えてやるって言ったんでしょ?」
幸恵の追及は厳しい。