「元気しとるかい?」コロナ前によく遊んだ親友に、思い切って連絡した。すぐに返信が届き、うれしい反面、怖くて…その内容は…

2 測りかねる

連絡するのなんとなくちょっと怖かったから、

そっちから連絡してくれて嬉しかった

またな

そしてまた、筋肉ウサギが別のポージングをきめているスタンプが送られてきた。熊が爆笑しているスタンプを返して、改めて、パソコンに向き直る。

パスワードを入れながら、良かった、と声が出ていた。安心したのもある。嬉しいのもある。でも、腹の底が温かくなるような、心臓がふわふわするような、この感情の名前が分からない。

次の瞬間、俺の目からは涙が溢れていた。自分でびっくりしてとっさにうつむく。膝にぽとぽと涙が落ちる。一つ大きく息を吐いて、吸って、また吐く。スマホの先にあるティッシュを1枚取って、涙を拭いて、鼻をかむ。

昼休憩は終わりだ。今日も定時に仕事を終えて、俺はスーパーに行く。ちょっと凝った料理を作ってみよう。こうやって、これからも生きていく。

3 もっと近くへ

食材を詰めに詰めたエコバッグを肩にかけ直し、パーカーのポケットから鍵を取り出す。鍵穴に差し込んで、ひねろうとしたところでエコバッグがずり落ちそうになったが、なんとか無事に玄関に滑り込むことができて、樹生(いつき)はマスクの中で息を短く吐いた。

「ただいま」

玄関先に置いている抗菌スプレーを自分に振りかけて、手にも入念に塗り込んでいる間に、恋人の翔真(しょうま)がリビングの扉から顔を出した。

「お帰り」

3か月前なら、駆け寄る勢いで出迎えていた翔真だが、そうもいかない。

「とりあえず俺はシャワー浴びるよ。俺が風呂場に行ったら、台所に荷物運んで冷蔵庫に片付けてもらっていい?」

「合点です」

樹生が風呂場に入るのを見送って、翔真は玄関まで出てきた。ここまでしなくてもいいのかもしれないという気持ちもお互いにある。でも、どこまですればいいのかも分からない。分からない以上、万全を期すしかない。

新型コロナ感染症、ニュースで何度もその言葉を聞いて、映像を見て、実際に国内で感染者が出ても、どこかまだ壁1枚向こう側の世界の話だった。その壁が削れ、薄くなり、崩れ落ちるまで、あまりにも一瞬だったように感じる。

6月に予定していた結婚式は、4月に入る前に延期を決めた。産毛のようにいくつもの付箋が頭から飛び出した結婚情報誌はその役目をまだ終えることができないまま、テレビ横の雑誌棚に並んでいる。