【前回の記事を読む】夫には、別の女との子供までいた。それなのに今度は20歳にも満たない女にまで手を出した…問い詰めると、夫は笑うばかりで……
雪の夜
4
宿に着いたとき、空室は男が予約できた一部屋しかないことを告げられた。いまさら雪の中を引き返して、電車まで戻る気はしなかった。男が、よかったら一緒に、と言ってくれたので、葉子は黙って頷いた。
暗かったので、どんな宿だったのか、定かには思い出せない。しかし、玄関は広く造られ、小上がりに囲炉裏があったように思う。敷き詰められた緋色の絨毯が、宿の格式を思わせた。
満室だというのに、旅館に人の気配はなかった。夜が更けているせいかもしれなかった。お湯を借りに行くらしい浴衣姿の老女とすれ違っただけだった。
二人に、言葉はなかった。お互いの名前も聞いていなかった。宿の女中が二人分の浴衣を置いて部屋を出て行くと、しばらく沈黙があった。葉子は、何をしたらいいのかわからなかった。ただ、これから何かが起こるのだろうということは感じていた。
男が葉子を抱きすくめた。抵抗はなかった。帯は、自分で解いた。不思議と、恥ずかしさもなかった。
男の身体は熱かった。その熱さに、葉子は救われたような気持ちだった。
部屋には暖房が効いていて、寒くはないはずなのに、奥歯の下からこみ上げてくるような震えが止まらなかった。震えていることを悟られないように歯を食いしばると、葉子の身体は一層硬くなった。
布団に入ってきた男は、しばらく何もしなかった。葉子を抱きしめて、じっとしていた。
男の身体の熱さと息の感触だけを、葉子は感じていた。男からは、いい匂いがしていた。
やがて男が、ゆっくりと股間に手を伸ばしてきたとき、葉子はもう一度身を硬くした。
「寒くないかい?」
葉子は首を振った。震えるほど、緊張していた。
「わたし、初めて……」
男の目が、すぐ近くにあった。
「夫以外の人とは、初めてなの」
言い終わらないうちに、口がふさがれた。そのあとのことは、よく覚えていなかった。あの雪の夜のことは、すべてが偶然だったと思う。偶然だったが、あの夜のことが、葉子の生き方を決定的に変えてしまった。