【前回の記事を読む】別れた妻の部屋を、別の女性に使わせることになった。ベッドも鏡台も洋服も残ったまま。「どれでも自由に使って」と伝えると……

雪の夜

3

葉子は、普段店では和装だが、洋服を着るときは、フリルのついたスカートや、花の刺繍のはいったブラウスとかが好きだった。そういうものを身につけると気持ちが華やぐ。そうやって、気持ちを豊かにする工夫をしてきた。

クローゼットから黒地に水玉の模様の入ったワンピースを選び、腕を通してみた。腰の辺りがかなり絞ってあり、スカートは細かくフリルを織り込んであり、バルーン状に膨らんでいた。

「ぴったりじゃないか」

リビングに出ると、英介が目を輝かせた。自分でも驚くほど、サイズが合っていた。

「なんだか、恥ずかしいわ」

「よく似合っている」

英介の妻だった女の洋服を着て、こうして英介に見られていると、自分が自分でなくなって、別の存在になったような気持ちになる。それは、どこか拠り所のないけれど新鮮な気持ちだった。

「本当に、よく似合っている」

英介が、感心するように言った。葉子は、自分が自分でなくなることで、かえって自分の中の深いところが晒されているような気持ちになり、胸が熱くなってきた。

「それにしても、君の腕は細いんだね」

しみじみと、英介が言う。

「奥さまも、そうでしたの?」

「君のような可憐さはなかった」

「本当かしら」

英介が、葉子の腕を取った。英介の指には、熱がこもっていた。

「腕ばかりじゃない。脚も指も、こんなに細くて……」

英介の熱が、その指を通して葉子の体内に沁み込んでくる。こんなふうに男の人に言われたのも、触れられたのも、初めてだった。

葉子は、決して痩せているというわけではなかった。胸にも尻にも、それなりに肉はついていたが、腕や脚は、たしかに細かった。

「この細い腕や指で、あのお店を切り盛りしてきたんだね」

そう言われると、自分の腕や指が、愛おしいものに思えてきた。

英介に言われて、葉子は自分の身体を改めて意識した。自分の身体なのに、自分だけのものではないような気持ちだった。それが、すごく心地好いものだと思いながら。