その夜、葉子は何度も英介にかき乱された。

英介の奥さんが数か月前まで使っていたというベッドは、小振りながら頑丈なフレームで、スプリングもしっかりとしたものだった。

「この部屋では、なんだか恥ずかしいわ」

葉子は、上の空でそうつぶやいた。天井のクロスの木目模様が、ぼんやりと見えた。

英介は、葉子の言葉には答えずに、何度も葉子に覆いかぶさってきた。いくつかの波があり、全身から力が抜けていった。

福島の温泉郷の旅館で、十五年振りに英介に身を任せたときは、何が何だかわからなかった。あれから数日経って、それが現実のものとして落ち着いてきた格好だった。

この十五年、あの日のことを忘れたことなど、一度もなかった。十五年の間に、英介との記憶は何度も思い返されてはかき消され、やがて葉子の中で結晶となっていた。それが、現実のものになって、目の前にある。その事実が、なかなか本当のこととは思えなかったが、数日が経ち、ようやく肌で受け止められるようになった。

明け方、葉子は夢を見た。

夜だった。暗さの中にぼんやりと明るさのあるような空間だった。雪かもしれないと思った。この白さは、きっと雪に違いない。しかし、雪だという確証もなかったし、寒さもなかった。感じているのかもしれなかったが、わからなかった。

葉子は、ボックスシートに座っていた。すると、ゴトンと揺れがあり、電車が動いたようだった。周囲を見回したが、誰もいない。離れた席に、人がいるようだった。しかし、英介ではなかった。夫のようにも見えたが、はっきりとはわからない。

電車は徐々にスピードを上げていく。外を見ると、空を飛んでいた。ふわりとした浮遊感にとらわれる。空を飛んでいる? 銀河鉄道のようだと思った。わたしはどこへ行くのだろう。先のことなどわからない。しかし、不安はなかった。硬いはずのシートは柔らかく思えて、自分がひどく落ち着いていることが、自分でも不思議だった。

次回更新は10月31日(土)、22時の予定です。

 

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