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簡単な夕食だったが、ヘッド・ボードに備え付けられた時計を見ると九時を過ぎている。宗像はシャツを着、蝶ネクタイを締め、タキシードの袖に手を通してロビーに下りた。フロントの女性がにこやかな顔で声をかけてきた。
「今晩は、宗像様。おくつろぎ頂いていますでしょうか?」
「ありがとう、さすがに素適なホテルですね」
お愛想の返事をして外に出ると、昼間の暑さが嘘のように消え去り、乾燥した涼風が身体を包み込んだ。玄関の車寄せで立ち働く初老のドア・マンを見とめて、カジノの方角を尋ねた。
「はいカジノですね。玄関を右に出て最初の角を右折すると公園に出ます。そこから右を見ると、正面にカジノが聳えていますが、カジノの玄関はそこにはございません。皆さんよく間違えられましてね。良いですか、建物の左側を奥に回り込むのです。玄関はその一番奥にございます。左ですよ、正面の左側に向かって進んでください」
夕闇迫る中、幻想的なイルミネーションに縁取られた飾りのゲートを縫って進むと、電飾ランプに飾られた派手派手しい建築が正面に見えてきた。
宗像は指示されたように左に向きを変え、建物のコーナーを回り込んだ。確かにかなり奥だが、玄関らしい庇が見えている。
風除室を通り抜けると、玄関ホールにはレストラン、ショップ、展示コーナーなどが小奇麗に店を連ねている。
そして奥のガラス・スクリーン越しにスロット・ルームが透けて見えている。
ギャンブル・ルームの表示に従って緩やかな階段を上り、広いロビーに行き着くと、いかにも唐突な感じでアート・ギャラリーと毛皮や宝石のショップが店を出していた。