「ショパンがこんなたくさん」

葉子は、スチール製のラックに並べられたCDケースに目をとめた。二十枚ほどあるが、どれもショパンだった。

「奥さま、ピアノを?」

葉子は尋ねた。

「昔はやっていたみたいだが」

「わたしも、ショパンが大好きなのよ」

「君も、ピアノを?」

「わたしは聴くだけ」

葉子は、CDケースのラベルを、ひとつひとつ眺めた。バラード、スケルツォ、前奏曲、夜想曲、様々だった。バラードのヘ長調は、とくに好きな曲だった。

クローゼットを開けてみて、葉子は驚いた。

そこには、鮮やかな色彩の洋服がぎっしりと詰まっていた。とてもおしゃれな女性がここにいたのだと、瞬時に感じた。しかも、どれも葉子の趣味と近いものばかりだ。

「すてきなお洋服……」

「気に入ったら、どれでも自由に使ってくれ」

「いいのかしら」

「ああ。一度も手を通さなかった洋服もあるみたいだ」

葉子は、着物ひとつで中崎の家を出てきたので、着替えを持ち合わせていなかった。洋服がこんなにあるのは嬉しかった。

「奥さまって、小柄な方だったのかしら」

葉子は、戸惑いながら、この部屋で暮らしていた女のことを想像した。

「そうだね」

「わたしくらい?」

「まあ、そんなところかもしれない」

英介が、曖昧に答えた。わたしに、気を遣ってくれているのだろうか。

つい数か月前までここに、顔も知らない女が暮らしていた。そう考えると、急にその人の存在が意識されてきた。

しかも、その人が使っていた日常の何もかもを、わたしはそっくり受け継ごうとしている。葉子は、自分が別の人間の人生を奪い取って生きようとしているような、妙な錯覚に陥った。

 

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