「出家や道家がやることでは?」
「坊主や道士は、遺体を前にして読経やら供養やらはするが、汚物の処理まではしない。遺体ってえのはな、ものすごいにおいがするんだぜ。だからこっちは、毎日沐浴してからだを清める。毎日だ。でも宮中にゃ、おれみたいな宦官が入れる風呂はないから、城外の、ずっとさきまで行かにゃならん。一日に歩く距離もばかにならんぜ。歩いてると小腹がへるから、こうして麵屋の売り上げにも貢献できるってわけだ」
「毎度、どうも」
「はは、腹もくちくなったし、そろそろ帰るとするか。そうだ、主人、こいつに、手をあわせてやってくれ」
客は、白布を顔に巻きつけて、屋台の脇に置いた小さな荷車を指さした。
「中身は、何なんですか?」
「位牌(いはい)だよ。おれと同郷の宦官の。昔から親交があってな。宦官になるとき、どちらかが死んだら、残ったほうが骨をひろう、そういう約束をしてたんだ。おれは運よくというか、いや、運がわるかったのかもしれんが、城内にご縁があったけれど、こいつはとうとう、一生、黒戸(ヘイフー)のままだった」
言われてみると、妙な親近感を感じる。
「生きてたときは、どんなふうに世すぎを?」
「一所懸命、おもちゃをつくって、売ってたよ。あんたのとなりでな」
意味が焦点をむすぶのに、しばらく時間を要した。
あの、おやじが?
「ま、まことですか?」
「そうだよ」
言われてみれば、たしかにこのところ、姿を見なかった。どうしたのかと案じてはいたのだが。
「い、いったい、どうして……」
「東廠(とうしょう)にしょっぴかれたんだよ。なんでも、出獄したばかりのもと役人とつるんで、政局の批判をしていたんだって? 刑吏の拷問は、容赦がない。手足の骨はくだかれ、立ちあがることも食べることもできなくなり、さいごは、汚物まみれになって死んだそうだ」
私はその場に、がっくりと膝をついた。
「おれは人づてにその話をきいて、願い出た。友人を葬らせてほしいと。東廠のやつらも、いずれはおれの世話にならにゃならんから、あっさりゆるしてくれたよ。知り合いの僧侶にたのんで、ねんごろにお経をあげてもらった。不憫なやつだよ、なあ……子どもたちをよろこばそうと思ってよ、毎日、おもちゃをつくってたんだぜ……」