「ん〜でもなんか、ウサンクサイ。上手くまとめた感じがするけれど、そのうなんだ、ニョウボ子供に捨てられた爺さんが、そんなふうに家族に義理感じちゃあ、似合わんね」

トモロボは更に考え続け、そのうちに左の口角がわずかずつ引き上がっていくのを感じた。

「そう、そうだな、こう言ったらいい。『トモロボ。おまえは掛け替えのないわしの家族だ。だから一緒に、スクラップ』。あっ、これいけるね。このセリフいいね」

興に乗るトモロボを尻目に役人が言った。

「どうしますか、トモロウさん」

「スクラップ」

「そう、そうこなくちゃ。でも駄目だよ。それっておいらの受け売りになっちまう」

トモロボが残念そうに首を左右に数回振った。

「じゃあ、どうしたらいいんだトモロボ」

「それはトモロウ、あんたが自分で決めるこった」

「わしが自分でか。自分で。そうか、うむ、分かった」

そう言ってトモロウが沈思黙考の態勢に入った。トモロウは爺さんとなって以来物忘れが

すっかり板につき、把握できる世の中の情報量がめっきりと減ってきていると感じていた。思い出すまでの時間を稼ぎ、まかり間違って思い出したときにも冷静さを保っておく為にと考え出した、トモロウのルーティンワークが始まったのだ。

それはまるで奥歯に挟まったものを取り除こうとするかのようにシーハーと息を吸っては吐き、小指の爪の先で前歯の隙間を掻き続けるといった、トモロウ独特の仕草の繰り返しであった。

「あのー」

数分の間に耐えかねた役人が声を出した。

「なんだ。まだ考え中だが」

「そうだよ、待ってあげてよ。奥歯にものが挟まってちゃ言いたいことも言えないんだよ。それってトモロウのストレスの元凶だよ。へっ、奥歯なんて遥かな昔からないんだろうけど。あぁいやいや、トモロウが教えてくれるんだよ。

年取っていいことは、ものが挟まる奥歯がなくなることだってね。それで何にもひっかからないから気にならないんだって。言いたいことスパッと言えて、気持ちがスッキリするって。まぁその結果がニョウボとこのザマなんだな」