【前回記事を読む】私が「看護師」になろうと決めた理由は、高校3年のある日…定期券を拾ってくれた男性と交わした数分間の会話のなかで……

第三章 初恋と看護学生時代

看護学部は病院の敷地内にあったから、寮も看護学校のすぐ目の前にあった。はじめての一人暮らしで周りに知り合いは誰もいなかったけれど、入学したらしたで、こんな私でもすぐに友だちができた。それにつれて、不安よりも楽しみのほうが少しずつ増えていった。

一年生は座学が中心だったから授業にも余裕があったし、私はやらなかったけれど、なんならバイトもできたと思う。高校時代まで低迷していたスクールカーストも、ここではみんなに同じ目標があるからかもしれない、それほど下位に甘んじる必要もないと少しだけ吹っ切っていくことができた。要は、思いきって飛び込めばいいだけのことだった。

学校と寮との往復だけではとんでもなく行動範囲が狭くなるので、近くで一人暮らしをしている同期の子のアパートにときどき遊びに行った。

そんななかで特に仲良くなった友だちは、福島県出身の山本(やまもと)由紀(ゆき)ちゃんだった。同じ寮生で、「東北は田舎だから、せめてちょっとでも都会に出たいと思って、まずは北関東の栃木県まで来たんだ」と語ってくれた。

「智美ぃ、学校にも慣れてきたねぇ」

由紀ちゃんの声は少しハスキーだ。

「そうだね、はじまって三カ月経つからね。まだ、そんなに授業が厳しくないからかもね」

やがてどんどんつらくなっていくとも知らず、このころの私たちは、まだまだかなりの余裕を見せていた。

「でも、だんだんムシムシしてきたねぇ」

「うん、夏が近づいてくるね」

晩春、もしくは初夏の陽気のなかでの休み時間、私は、開け放った教室の窓から外を眺めながら彼女の話題に応じていた。

「梅雨が明けたら海にでも行きたいね」と、由紀ちゃんはすでに夏の気分だった。

「由紀ちゃんは、海が好きなの?」

「まあ、彼氏とたまに行っていたよ。東北の海だけどね」

由紀ちゃんには地元に彼氏がいる。相手は高校時代の同級生らしかったが、彼は地元に残っているのでここへきて遠距離になってしまっていた。