もちろん、この捉え方に唯一の正解はない。医学、法律、宗教、そして個々人の死生観によって、答えは異なる。しかし、その揺らぎこそが、「いのちとは何か」を考える出発点だ。

胡蝶夢号の旅は、各地の風景を巡るだけではない。生命科学の知見と、人が古くから抱いてきた問いとを行き来しながら、「命」と「いのち」のあいだを往復する旅である。

夢の中で蝶となった荘子が、目覚めた後に自らの存在を問い直したように2、私たちもまた、この旅を通して、自分自身の「いのち」の輪郭を静かに見つめ直すことになる。

現在、人類は多様性爆発、環境破壊、新興感染症爆発という「第5の波」のただ中を航海中だ。この荒波を乗り越えて地球人社会である「第6の波」に到達できるか否か正念場にある。しかるに世界ではウクライナ戦争や中東危機、地球温暖化などの環境破壊、自然災害の増加や食料危機などが迫る。新型コロナウイルス感染症の記憶はまだ生々しいが、次なる新興感染症の危機に直面している。1

感染症と戦った北里柴三郎、敵味方なく助けるという赤十字精神に感動して日本赤十字社の前身である博愛社を創設した佐野常民は、いまの世界に静かな警告を発している。長崎の平和祈念像や広島の原爆ドームは強く平和の尊さを訴える。吉野ヶ里遺跡の人骨墓は、弥生人の「いのち」へのまなざしが刻まれ、臼杵(うすき)の石仏には、心の平穏を求める人々の祈りが満ちている。


1 平野俊夫(2025)『胡蝶夢号の旅 過去を思い、今を見つめ、未来を想う』(幻冬舎)

2 福永光司(1964)『荘子』(中央公論社)

次回更新は10月21日(水)、18時の予定です。

 

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