家路を急ぐ一艘(そう)の小舟があった。その小舟は、光のコントラストの中に入ると、魔法にでもかかったように遅々(ちち)として進まなかった。けれども、危険に晒されているようではなく、小舟自ら楽しんでいるようだった。

清一が合浦警察署に戻ったのは、十七時過ぎだった。

「大利家戸さん、先程から浜道(はまみち)さんが待っていますよ」

私服に着替えた小村が駆け寄ってきて言った。出かけるときに比べると、唇の紅が少しだけ濃くなっているようだった。

「お待たせ」

清一が、廊下の長椅子に腰をかけていた浜道に声をかけた。

「ちょっと近くまで来たので寄ってみたんです」

長椅子から立ち上がった浜道が、笑顔で応じた。浜道は、十和田西警察署の玉田(たまだ)刑事の後輩で、今は青森中央警察署の刑事課に勤務していた。

「大利家戸さん、こんなところで燻(くすぶ)っていていいんですか」部屋の中に入ると、浜道が言った。

「浜道君、何か変わったことでもあったのか」

お茶をすすめながら、清一が受け流すように尋ねた。

「うちの署では捜査が全く進展していないというのに、課長は手を拱(こまね)いているだけなんです。

そのことで、署長は何も言いません。大利家戸さんに頼めばいいと思っているのは、僕ばかりじゃないんですよ」

「そればかりは、どうにもならない」

「だったら、二、三教えてください」

浜道が話したのは事件の概要と捜査方法、それから、それによって得られた証拠物件についてだった。

 

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