【前回の記事を読む】感染者ゼロだった岩手から母が迎えに来た。休憩でマスクを2重にし、車に戻ると私の手に消毒スプレーを何度も吹きかけた。私がむせると母は…
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いつまでいることになるかもわからなかったので、なんだかんだと詰め込んだスーツケースや高校のときから使っている濃紺色の大きなリュックサックは車に残し、身体を気持ち薄くする感覚で、少しだけ開けた玄関から、すうっと入ってみた。
泥棒に入るなら、きっとこんな感じで入るのだろう。こんなところが田舎あるあるなのだろうなあと思った。
半身でするりと車を降り、半身でするりと玄関から、我ながらなかなか上手に、久しぶりの我が家に入り込んだものだと思う。意外と「そういう」才能もあるのかもしれない。
とはいえ、自分自身がウイルスにでもなった気分で、なんだか申し訳ない気がしてきた。家の匂いだ。どんな匂いか説明がつかないのだが、慣れ親しんだ我が家の匂いであることは確かだった。
帰ってすぐに、洗面所に追い立てられ「念入りに」とくぎを刺されてから、うがいや手洗い、消毒を一通り済ませた。どう見ても必要以上に念入りに、母も同じ流れを繰り返している。
玄関とリビングと洗面所に消毒液の白いポンプが置いてある以外は、いつもと変わらない我が家だ。父と妹と、戻ったばかりの母と自分。