2

三ケ月ぶりの我が家への帰省が決まった。決まったというよりは、決めた。コロナ禍によるという理由だったが、それでもやはり、帰省は嬉しいものだ。

母が車で迎えにきてくれることになった。たまには甘えてみるものだ。母は、私の大学入学後、心配だったからなのか、都会の風を感じたかったからなのか、新幹線でやってきて、アパートに一泊していったことはあった。

だが、今回に限っては、「いやあ、迎えには行くけれど、そっちは怖いわあ。毎日感染者がびっくりするくらい増えているじゃない。こっちは、まだ感染者一人も出ていないからねえ。これじゃあどこかに遊びに行けるような状況じゃないし。一時間くらいアパートで休ませてもらったら、そのまま出発するね。間違ってもウイルスを岩手に持ち帰ったりできないよ。そんなことしたらとんでもないことになるわ」と言っていた。

その言葉の通り、朝早く出発して車でやってきて、昼頃私のアパートに着くと、コンビニで買った「たらこと卵焼き入りののり弁当」と、やたら大きなシュークリームを食べながら一時間きっかり休んだ。私にも同じものを買ってきたが、どう考えてもおなかに入りきらず、シュークリームまでたどりつかなかった。

そのうち、「もう出発するよ」と、落ち着きなく荷物を車に積み込み始めた。

部屋にとどまっているだけで、感染するとでも思っているんじゃないか、というくらいのせわしなさだ。長い距離を運転してきて、またすぐ出発してまで、早く帰りたいらしい。いや、私を連れ帰りたいらしい。

途中のサービスエリアで一度トイレ休憩をしたきり、そのまま運転し続けた。その一度のトイレ休憩だって、マスクを二重にして、車に戻るなり、携帯用の消毒スプレーを何度もシュッシュッシュッと自分と私の手に吹きつけた。

あまり吹きつけるものだから、軽くむせると、あわてて口元を押さえているではないか。

未だにETCの搭載をしていない車なので、高速の料金所で料金を払った後にも、片手運転でもたもたと消毒スプレーを手に刷り込んでいた。

その姿を助手席から横目で見ながら、そこまでするのかと思ったが、料金所でのお金のやり取りの際は、もしかしたら息まで止めていたのかもしれない。

料金所のおじさんからしたら、「そんなに心配なら早くETCをつけたらいいじゃないか」と言いたくなるだろう。娘の私が万が一にでも感染していたとしたら……と、口にこそ出さないが、かなり不安なのが見て取れる。

「なんか暑いわね」と言い訳がましくつぶやきながら、ほんの少し運転席側のウインドウを開ける。暑いわけがない。四月初めの春の冷たい風が車内にすうっと入り込んできた。

往復十二時間の運転はさすがにアラフィフの母には、かなりきつかったようで、家にたどり着いてからも運転席からなかなか動かなかった。

しばらくして、やっと車を降りようとドアを開けながら言った。

「荷物は後で降ろしてあげるから、まず自分だけ家に入りなさい。そっとよ、そっと」と念を押す。

なぜ、そんなにこそこそと。何を言い出すのかと思ったが、どうやら、ご近所さんの手前、関東の大学に通う娘の帰省には、ずいぶん神経質になっているらしかった。

真名ちゃんの苦笑いスタンプが頭をよぎった。さすが、「感染者ゼロ県」である。

次回更新は11月3日(火)、14時の予定です。

 

👉『それでもあおく輝く』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】彼女を抱くと、体中の縛りが解き放たれる。「急がないで、お願い、ゆっくりして」と喘ぐ声を聞きながら、俺は…

【注目記事】妻の不倫相手のアパートに突撃!ドアをこじ開け土足のまま上がりこむ…部屋にいた男は妻と同じ職場に勤めていて、まだ30代だった。

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp