「どーしたー?」盛江はすでに起きていた。

「こっちの茂みにー、自動車があるんだー!」
「自動車?」
林と盛江は顔を見合わせた。

――もしかしたら、最高の移動手段をゲットできるかもしれない。

他の面々も食事を済ませていた。みんな砂川の元へ歩いていった。彼は線路から五メートルほど離れた藪の手前に立っていた。茂みの中に自動車があるらしい。

「君たちは来るな」砂川は中学生を制した。
「えー、どうして?」
「後で説明する。池上君もここにいて」
「……はい」池上は青い顔をして素直に従った。

――?

林と盛江ら男子大学生は、砂川の後に続いて茂みに分け入った。木立を十歩も行かないうちに、白いものが見えてきた。ワンボックスカーのようである。四人はその真横に足を止めた。

「こりゃ、どういう状況だ?」盛江は声を漏らした。

そのワンボックスカーは、ハンドルより前部分が、鋭利な刃物で縦にすっぱりと切り落とされたように無くなっていた。どうやらそのラインでタイムスリップが起こったらしい。

妙に虫が飛んでいる。
林はふと地面に目をやった。
「あッ!」口元を手で覆う。

失われた前部分の真下の地面に、人間の遺体が転げ落ちている。腐敗がはじまって虫が湧いている。身体はかろうじて人間らしい厚みを残しているが、表も裏も分からない。ただ、肘と膝の先が無いことは分かった。

砂川はいたましい目でそれを見下ろし
「線路やアスファルトがぶった切られるんだから、車の板金や生身の人間なんてひとたまりもないよ。この人は運が悪かった。そうとしか言いようがない」

林の胸は悶えた。この人は災難だ。幸い、笹見平では一人の犠牲者も出ていないが、それがいかにラッキーなことであるか。そういう側面を、この無残な骸は教えてくれていた。どんなに苦しくても、生きているだけで、どれだけ希望があるか。夢を見られるか。

「いずれ埋葬しにこよう。今、ぼくたちは探検を続けるべきだ」

四人の大学生はうなずき、骸を囲んで手を合わせた。

名もなき遺体は、蠅をぶんぶん言わせて無常を伝えるようだった。