Chapter4 探検隊
翌日、探検隊は日の出とともに出発した。全員に見送られ、まるで二度と帰らぬ出発のようだったが、予定ではせいぜい三日で帰ってくることになっている。それだけ不安と危険を感じさせる旅のはじまりであった。
森の中の水源の川を、流れに従って歩いていく。川幅は約三メートル。木漏れ日が川面に降り注ぎ、無数の光の粒子を飛ばしている。両岸はなだらかな砂地で、木や草はまばら。八人は楽々と進んだ。
先頭を行く林と盛江は鉈(なた)を手にしていたが、途中で枝一つ切り落とす必要は無かった。小川の左岸を進んでいると、川向こうの森が開けて、その先に壮大な断崖絶壁が映し出された。以前に南下を断念した崖である。
「こないだの探検は、あそこの上で諦めたんだ」盛江は言った。
「ここから見ると随分高いね」林は崖の上端を見た。
「全くだ。こんなことならはじめっから川沿いのルートを取ればよかったな」
さらに一時間も歩くと、八人は崖の縁に達した。小川は細い滝になって崖下に落ちていく。見下ろすと、五〇メートルばかり下に滝壺があり、水霧を上げている。目の眩む高さである。
崖上から滝壺の先の流れをたどると、川は南に続き、大きな川と交わっている。吾妻川である。八人は森を迂回して崖を下り、吾妻川本流の岸へ辿り着いた。八人はあたりを見渡してショックを受けた。
心のどこかで「あるはず」と願っていた国道一四四号線は、やはり無かった。道のあるべきところは川岸で、丈の短い草と赤錆した砂利石ばかり。舗装道路の欠片もない。
八人は気を取り直し、川の左岸を東へ歩いた。もうしばらく進めば例の遺跡のある今井地区に出る――そう思いはじめた矢先、林は吾妻川の対岸に見えたあるものに、目を疑った。
灰色の長方形の物体が――どう見ても人工物としか思えない何かが――、正午の太陽を浴びて、白く光を返しているのである。
「あれは何かな?」林は誰へとなく尋ねた。
七人は横並びになり目を凝らした。
「あれって、何かの建物じゃないか?」砂川は自分の目を信じられない様子で、盛んにまばたきしている。
「建物? 一体何の?」
「何って、その――」
すると、
「駅だ! 駅だぜ!」叫んだのは盛江だった。折り畳み式のオペラグラスを顔にあて、興奮気味に肩を揺らしている。「看板が立ってるよ。『袋倉駅』とある。その下に万座・唐沢口、羽根尾……線路もあるぞ。その脇に建屋もある」