Chapter4 探検隊
ぶらぶらさせる足の下に、線路が伸びている。枕木の間は草が伸び放題で、濃緑の葉を広げている。林は周囲の風景に目をやった。この近辺のタイムスリップはかなり狭い範囲で行われているらしい。駅を中心に真っ直ぐ伸びる線路は、右も左も、視界の範囲でブッツリと切れている。きっとそこがタイムスリップの境なのだろう。
「あれからもう三か月か」砂川が言った。「こうして植物が育てば、植生の違いが目立たなくなり、そのうちタイムスリップの境目が分からなくなるだろう」
盛江は自分の指先に残った米粒を丁寧に啜り取り
「分からなくなることにどれだけ損があるのか分からないけどね」
「そりゃ困るさ。タイムスリップの痕跡を調べたら、現代に戻るヒントが隠されているかもしれないしな」
「おい、それ、ほんとか?」
「想像だよ」砂川はウンザリした表情を浮かべた。「それじゃなくても、今分かるものが分からなくなるのは、なんだかそれだけで惜しい気がしないか」
「まあ、そりゃ、多少は――」
「多少かよ」
「それより、俺たちもうこっちにきて長いんだから、そろそろ縄文時代のことを『現代』と呼ぶことにしないか?」
「お前、案外適応力が高いな。あの時の笑いの発作が嘘のようだ」
砂川はそう言うとプラットフォームから線路にひょいと降り、
「おーい、池上君(砂川は、先に食べ終わってあたりをぶらぶらしていた中学生男子を手招きした)。みんなが喰い終わるまで、俺とタイムスリップの境目あたりを調べてみようぜ」
うーい、と間延びした返事が聞こえた。
砂川は中学生のところへ歩いていった。合流すると、線路の切れ目へと向かった。林は二人の背中を見つめていた。影は小さくなり、ちょうど線路の途切れたあたりの左手の、藪の付近に消えた。
あたりは蝉の声で満ちている。
林は自分の握り飯を食べ終わると、隣で盛江がしているように、後ろに身を倒した。日に晒されたセメントに背中を重ねる。固さと熱を感じる。こんな他愛の無い人工物でも現代の痕跡だと思うと、そのぬくもりすら貴重に思えてくる。
林は温かさに包まれてうつらうつらし始めた。
「おーい、大変だ!」
ふと、砂川の声が聞こえた。林は身を起こした。