「僕はただ、あなたがどうしているか、ひと目会いたいと思って。あんな立派なお店を切り盛りして、すごいですね。それに、ずいぶん元気そうで、よかった」

英介がそう言うと、葉子は、いったん目を伏せてから、英介を見た。

「わたしが、元気そうに?」

「違いますか?」

「どうでしょう……」

葉子は、宙を見るような目をした。

「毎日、かつかつでやっているだけです」

そう言って、複雑そうな顔をした。しかし、十五年前の雪の夜に見た葉子と比べたら、ずいぶんと元気そうに見えるのは確かだった。

「あのときと、変わっていませんね」英介がそう言うと、葉子は首を振った。

「こんなに皺も増えて、ずいぶんおばあさんになってしまいました」

「いいや、十五年前と、あなたは少しも変わっていない」英介は、心からそう思った。

「あなたも、変わっていないわ」

葉子は、英介を透かし見るように、視線を注いだ。その目の深みの中に、英介は吸い込まれそうになった。

「あなたに会ったら、いろいろなことをお話ししたいと、ずっと思っていました。でも、顔を見てしまうと、何を喋ったらいいのか、わからなくなって」

そう言うと、葉子は窓の方に目を向けた。

窓ガラスの向こうには、漆黒の夜があり、夕刻まで鮮やかな色を見せていた木々の葉が、黒い塊になっていた。

「あれから、どうしていたのか、よかったら、話してくれませんか」

「ええ。あなたの話も聞きたいわ」

葉子の姿が、英介に向かってゆっくりと近づいてくるようで、英介は胸が熱くなってきた。十五年ぶりに再会した葉子が、こんな反応をしてくれるとは、予想もしていなかった。

頭の中で勝手に理想化された女の姿は、現実の世界とはかけ離れたものになっていて、もう交わるものなどないのではと覚悟していた。

「今日は、ゆっくりできますか?」

言葉を選びながら、英介は尋ねた。この時間を、少しでも長くとどめておきたいと思った。そのとき、葉子の目の黒い部分が光った。

 

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