あれから何日経っただろう。今日は何曜日なのだろう。

杏子のアパートでただ酒を飲み、そして酔えば眠る。

蓮花畑が続き、近くの土手の上に土筆(つくし)が生えている。

「玉子とじ、えんどうもいれて作ってみたいね」どこからか杏子の声が聞こえる。

あの日の午後、テレビで杏子の写真と名前が映し出されていた。

時々、苦しく泣いた気がする。杏子に何もしてやれなかったことが、ひろしは悔しくてならなかった。なんで杏子の乗ったバスなのだ。何度も乗ったバスならともかく、初めて乗ったバスがどうして事故に遭わなければならなかったのだ。

「白銀の世界って初めてだけど、本当に真っ白の風景って……空も、山も、道も白く輝いて、風さえ白い香りがするのよ」

どこかから、淡いピンクのサロペットを着たスキーヤー姿の杏子が現れ、白銀の林間コースでだんだんとスピードを上げながら、空に向かって消失していく……。その後は、白銀の世界に、白い風。そんな夢を何度も見た気がした。

ひろしはその夢を追いかけるように何度も焼酎を煽(あお)り、眠ろうとした。

やっと自分を取り戻したのは、自分のベッドで目覚めた時だった。杏子のアパートで倒れている所を杏子の母親に発見され、近くの病院で2、3日入院していたようだった。

「ひろし、お前のこと、何も知らなかったわ」母の声がした。

「杏子さんのご両親が何日か前にうちにいらしたけど、もう少し落ち着いてからお話するね」

母は、当惑していたのだろう。そのまま、部屋から出ていった。

ベッドの足下に新聞が置いてあった。

ひろしはそれを手にとって、あの日の記事を見た。ビルの爆破事件には、あの地下のアジトに出入りしていた奴らが関わっていて、そのうち何人かが逮捕されていた。

夕方、母がお粥を持ってきた。家に警察は来たかと聞いてみた。

「そういえば、警察の方がみえたけど、お前が入院していると言ったら入院先を聞いて帰られたのよ」

ひろしは旅に出よう、と思った。二度と帰らない旅へ。