雪が降りやんだのはその翌日のことだった。積雪はほぼ60cmに達していた。この時期にこれだけ積もるのは滅多にないこととサイモン夫人は言っていたが、とにもかくにも、州道までのドライブウェイの雪を掻かなければ、どこへ行くことも何をすることも出来ない。私はスコップをもって外に出た。
空はすっかり晴れ上がり、純白の世界のなか、辛うじて除雪された州道のみが黒い帯のように続いている。そして久しぶりにキャッツキルの山々が神々しいばかりの陽光を受けながら、下界を睥睨(へいげい)しているのが見えた。
結局、この日は終日、雪かきに費やした。雪質は乾いていたため、さほど重くはなく、私はアップルワインのボトルをほうり投げては、そこまで雪を掻いて、ワインをラッパ飲みするという作業をひたすら続けたのだった。そうすることで、徐々に邪念が消えていくような気がした。
時折、マーティン家の様子を窺ってはみたが、ひっそりと静まり返ったままだった。
恐ろしいほどの静寂のなか、時折、鹿の群れが木々の間を駆け抜けていくのが見えた。秋頃まではドライブウェイの両側に植えてある洋梨の木の実を狙って、毎朝のように来ていたのだが、今は森の奥深くに身を隠しているのだろう。
一刻も早く、ナタリーの母親に会い、何としてでも彼女を病院に連れて行く許しをもらわなければならないという思いだけは変わらなかった。
2日後、私はようやくイザベラに会うことが出来た。彼女が仕事から戻ってくるタイミングを見計らってマーティン家を訪ねたのである。しかしながら、彼女の態度は頑ななままだった。
「タカオの気持ちはありがたい。でも、ナタリーだけにそのような特別扱いをするわけにはいかないのよ」
これがナタリーの母、イザベラの言い分だった。そしてこうも告げたのだった。
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