【前回の記事を読む】警察によると、息子は1人で公園にいたらしい。突然、中年の男に抱きかかえられ、防犯ブザーを鳴らした直後……

第2章 陰と陽

1 結城が警察官になった訳

こうして兄や妹はそれぞれ親の関心を集めていたが、結城についてはまるで無関心だったのである。物心つく頃から家にはツネ以外ほとんどいず、母の手料理など結城は食べたことがない。抱き締めてくれたことはおろか、頭を撫でてくれたことも皆無だった。

結城も幼いなりにいろいろ考えた。自分の体が弱いからだろうか、勉強の仕方が足りないのだろうかと誘拐事件以後、皆に迷惑をかけないようにしよう、自分の身は自分で守ろうと考え、体が小さく腕力がなくてもいい合気道の道場に通って体を鍛え、学校の成績も兄より良くなったが、それでも両親の態度が変わることはなかったのである。

幼い頃、一度だけ結城はツネに訊いたことがある。

「僕はよその子なのかな?」

淋しそうに言う結城に、ツネは驚いて結城の手を握り、

「そんなことは絶対にありませんよ。坊っちゃまがお生まれになる時、私はずっとお嬢様のそばでお世話していたんですから」

たまに自分と顔を合わせても微笑みかけるどころか目も合わせようとせず、たまに口をついて出るのは叱責ばかり。なぜ自分は母に愛されないのだろう。父にしてもたまに言葉を交わすのは成績表を見る時くらいで、それも成績が少しでも下がっていたら何をやっている!と激しく叱責し、上がっていれば当然だと言わんばかりに何も言わなかった。

兄のように「よくやった」とか「もう少し頑張ろうか」などと言ってもらったことはなかったのである。

二つ上の兄の秀人は秀人で父と談笑したり褒められている時には、いつも結城に向かってうらやましいだろうと言わんばかりの嫌な笑い方をするのである。

結城が合気道で力をつけ、成績が自分より良くなった頃から秀人はチクチクと嫌がらせをしたり言ったりするようになった。

「お父さんもお母さんもおまえが嫌いなんだよ。お父さんはおまえのことを『何を考えてるかわからん奴だ』と言ってたし、お母さんも『あの子は人の顔色を窺うような嫌な眼つきをする。それにいつも何か臭いを嗅いでいる下品な子だ』ってツネと話してたぞ」

などと面白そうに言うのである。勿論それを聞いたツネは、

「それはお嬢様が令助坊っちゃまを叱ってばかりいるからですよ。それに坊っちゃまはとてもお鼻が敏感で、もうすぐ雨が降るよとか、誰それがお家に来たでしょうとかおっしゃるんです。あれは生まれつきの特殊能力と言ってもいいものですよ。下品だなんて……」

と、母を窘めたが、そんなことは当然、秀人は言わない。

「皆、おまえは気味悪いってさ」

それを聞いて優しいツネも陰では自分の悪口を言っているのだと結城は誤解して悲しくなった。今の結城ならツネはそんなことは言わないと思い、秀人の噓も見抜けただろうが、その頃の結城はまだ幼かったのである。