【前回の記事を読む】派手髪だった“ギャルJK”が、たった1週間で“清楚系女子”に…彼女の目当ては男性警官で、毎日のように……

第2章 陰と陽

1 結城が警察官になった訳

なぜ警察官になりたかったのか、人それぞれ理由はあるだろう。親がそうだったとか、公務員だからとか、権力に憧れる者などいろいろである。

「おまえ、なんで東大行かないでこんなハコのお巡りやってんの?」

面白半分に洞口は結城に訊いたことがある。結城は珍しく口を開き、意外な事を言い出す。

「幼少の頃本官、誘拐されそうになったことがあるのであります」

洞口はこいつ、何言い出すんだと思ったが、すぐに好奇心全開で食いついた。

「それってヤバかったんじゃねえのか? それでおまえ、どうしたんだよ?」

「本官、防犯ブザーを持たされておりまして、その音を聞いた若い巡査がすぐに駆け付け、本官を連れ去ろうとしていた中年男性を取り押さえたのであります。その姿を見て、本官もあのように町の人たちを守りたいと思ったのであります」

ふうん、と洞口は訳わかんねえと言いたげに頭を振る。

「東大出てキャリアになりゃ、こんなしんどい勤務しなくても、命令一つで部下を動かせるだろうが。勿体ねえことすんね、おまえ」

「本官は現場の仕事をしたかったのであります」

それだけ言って結城はパトロールに出ていった。その背中を見ながら洞口は、ま、あれじゃキャリアになっても出世は望めねえなと肩を竦めたのである。

まだ五歳になったばかりの結城だったが、その時のことは鮮明に覚えている。幼稚園の送り迎えやどこかに出かける時は、いつも家政婦のツネが一緒だった。しかしその日はツネを呼んでも返答がなく、待ちきれない結城は一人で公園に行ってしまったのである。

一人でブランコに乗っていると、誰もいないと思っていた公園の入り口に、いつの間にか青白い顔をした中年の男が立っていた。

男は周りに誰もいないのを確かめてから何気ない風で近づいてきて、いきなり結城を抱きかかえて連れ去ろうとしたのである。

驚いて抵抗しながら、結城はツネに持たされていた防犯ブザーの紐を引っ張った。凄まじい警報音が流れ、男は慌ててブザーを取り上げようとしているところに、

「何をやっとるか!」

そう叫びながら若い巡査が走ってきたのである。男は結城を放り出して逃げようとしたが、すぐに追いつかれて後ろ手に捻り上げられ手錠をかけられた。それは本当にあっという間の出来事で結城は呆然としていたが、

「僕、大丈夫か?」

そう心配そうに声をかけられて、大丈夫と言うように小さな両手を胸の前で振った。この若き巡査と結城は同じ所轄で巡り会うことになるのだが、それはまだ随分先の話である。