【前回の記事を読む】中高生から“キモお巡り”と呼ばれていた警察官が、万引きしようとした女子高生を捕まえ、店外へ…彼女は無理やり連行されて…

第1章 『幽霊』と呼ばれる男

3 追川夢子との出会い

それから一週間ほど経った朝、夢子は四丁目交番にやってきた。真っ赤なちりちり頭は黒いショートヘアになり、すっぴんの一見真面目そうな女子高生になっている。この辺りでは有名な不良少女である夢子のあまりの変わりように、洞口は初め誰だかわからず猫なで声で、

「何か用?」

と、にやけた顔で笑いかける。この男は若い女と見ればすぐに鼻の下を伸ばす傾向がある。そんな洞口に外側は取り繕っても中身はまだがちがちの不良少女、夢子の強烈な罵声が飛ぶ。

「てめえじゃねえんだよ! 本官いねえのかよ!」

洞口はなんて口の悪いJKだと閉口して、本官? ああ、幽霊のことかと思い、

「あいつなら今日は公休日だよ」

そう言いながらこのJKが夢子だと気づく。

「あ、おまえ!」

夢子を指さす洞口に夢子はベーっと舌を出し、

「気づくの遅えんだよ、ばーか」

悪態をついて残念そうに口を尖らせ、もう用はないと言わんばかりに夢子はさっさと駅の方に行ってしまった。洞口は交番の入り口に出ていき、なんだ、あいつえらい変わりようだな。一体どうしたってんだ?と首を傾げながらその後ろ姿を見送った。

それから夢子は時々学校の行き帰りに四丁目交番を訪れるようになった。朝、結城が外で立番をしていると手を振って、おっす! 本官!と挨拶したりする。夜遊びもぷっつりと止め、夕方にはまた交番の前を通る。そして冒頭の話だが、結城の姿を見かけると勉強を教えてくれというのである。

「東大合格したんだから頭、いいんだろ?」

東大というワードに洞口が食いつく。

「おまえな、こんな若い子に悪質な噓をつくな。おまえのどこが東大なんだよ」

この男が人を見た目で判断するのは、今に始まったことではない。

結城は無視して報告書を書いていたのだが、夢子がそばに来たので書類を裏返して脅しにかかる。

「公務執行妨害で逮捕するのであります」

「なんだよ、少しくらいいいだろ」

しつこく食い下がる夢子に洞口はにやにやしながら、

「噓なんだから堪忍してやれよ。なんなら俺がみてやろうか?」

そう偉そうに夢子の持っているノートに手を伸ばしたが、

「無理だね、てめえには」