写真を拡大 みっちゃんが暮らす街
写真を拡大 須走神社付近図

序曲(オーバチュア)

1

はじめに聞いたのがいつだったか。みっちゃんは、あまりよく覚えていない。

とても小さい頃から、ときどき聞いていたような気がする。

あなたはない? 交差点で信号が青に変わるのを待っているとき、突然(とつぜん)耳の中ではっきりと、何か言葉が聞こえるってこと。

だれかに話しかけられたのだと思って振り向いても、そこにいるのは知らない人ばかり。みんな口をつぐんで、信号とにらめっこしてる。

おかしいな、確かに聞こえたよね――なんていうことが一度くらいはあるんじゃない。

みっちゃんが、「これって、何?」とその声をはっきり意識したのは、多分今から六年前。小学校四年生のときだった。

あの頃(ころ)はまだ、決められた道を真(ま)っ直(す)ぐ家に帰る子だったはず。

――ここ。ここで聞いたんだわ。何年も来てない小学校の通学路。小さな交差点で自転車をとめる。

どこかの庭からモクレンの香りを風が運んでくると、「うふっ。大根おろしって……」あの日聞いた言葉がよみがえって、ポッと口から飛び出た。

信号待ちしてた塾(じゅく)帰りの男の子が、おかしな顔でみっちゃんを見た。

あのときも、こんな顔をされたっけ。みっちゃんの記憶が、だんだんと鮮明(せんめい)になっていった。