「ぼけ」、「痴呆」から「認知症」へと用語変更
認知症は、以前、「ぼけ」、「老人ボケ」、「痴呆」、「痴呆症」などといわれておりましたが、平成16年、痴呆症から認知症へと用語が変更されました。これは、表記の単なる変更ではなく、この病気の捉え方に対する変化が背景にあるものです。
先例として、今から46年前に書かれた、有吉佐和子氏の小説「恍惚の人」(昭和47年)があります。日本社会における高齢者の介護問題を世間に知らしめた作品ですが、「恍惚の人」はすなわち「ボケ老人」を意味した言葉として、ちょっとした流行語となり、この作品は映画化(昭和48年)もされました。この小説は今日の問題を見抜いた高齢者の「ぼけ」を先立って正面から取り上げたといっていいでしょう。
ボケ老人の問題は当時の社会では、家族の恥とされ、世間から隔離され、そのことを話題にするのはタブーとされていました。その当時の日本の平均寿命は男性が69歳、女性が74歳で、今後予想される高齢化社会をわずかに意識するようになったばかりでした。65歳以上の高齢者は、現在は人口の26.7%(平成27年9月)ですが、当時は7%に過ぎなかったのです。
もともと、痴呆の「痴」という字はヤマイダレに知ると書きます。すなわち、「知ること」が病気になって、ボー(呆)とする状態になることを言い表しています。
痴呆症すなわち認知症(以下、認知症に統一します)は、心筋梗塞や肺炎などと同じように、病気であり、多くの原因があります。この病気に罹患した人は、人生の新しい段階に入ることになり、健康な人と比べれば生活する上での機能が低下したと見なされます。