あれは確か、利佳がまだ小学校に入ってしばらく経った頃のことだった。病気で若くして亡くなった祖母の雪江に、連れてきてもらったのだった。本当は、水族館に行くはずだったのに、隣の水族館がお客でいっぱいで入れなかった。目に涙を浮かべて残念がる利佳を見かねて、雪江は「ばぁばと、とりさんになろう」と言った。

初めて高いところから見る、広い景色だった。煌めく海、足元のビル群、遠くの方には山が見えて、その裾には丘陵地が広がっていた。

「ばぁば、ほんとうだ。とりさんみたい」

利佳は、それまで悲しんでいたことを忘れて、大空を散歩しながらはしゃいだ。

「ほら、りっちゃんあそこ見て。白いものがにょきっと建っているでしょ。あれは『宇宙の塔』と呼ぶのよ」

雪江が、遠くを指さして、穏やかな表情を浮かべながら言った。

「えっ、ばぁば、どこどこ?」

雪江が言う白い塔は、そのときの利佳には見えなかったが、それが大阪万博の会場の中に建っていたものであることは、だいぶあとになってから知った。

「ばぁば、ありがとう。りっちゃん、とりさんになって、おそらをとべたよ」

観覧車を降りて駅に向かう途中、利佳は雪江の手を引いて、スキップするように歩いた。

その姿は、他の誰から見ても、幸せそうな祖母と孫の姿に映っていただろう。雪江は、歩きながら歌を口ずさんでいた。朧気ながら利佳の記憶に残っていた。

そんな雪江が、病に倒れたのは、利佳が高校生のときだった。それまで大きな病気一つしたことのなかった雪江だったが、ある日突然、買い物先のスーパーで倒れた。運ばれた先の病院で検査をして、死の病を患っていることがわかった。それから数か月が経った夏の暑い日、雪江は帰らぬ人となった。