結局トイレに居たのはほんの束の間だったが、そんな時間軸に当てはまらない悠久(ゆうきゅう)の時の流れを正春は感じていた。
清次と良は正春の戻りが遅いので、新しい女をゲットしてホテルへ向かったのかな? なんて思っていたようだ。「少し前にトイレに行ったけど誰もいなかったし……」
正春は自分の腹部を指さして、再度「調子悪いんだ」こう言うと「じゃ、今日はもう帰りますか」になった。
2日後の昼過ぎ、正春は何時(いつ)ものルーティンであるボクシングジムに出掛ける。スポーツは格闘系が好きで、以前は実戦空手に熱中していたが、礼儀や規則を重んじる道場に嫌気が差して可成(かな)り前に止めたのだ。それに引き換えこのジムは実に居心地が良く、気が付けば長い間に亘(わた)って通い続けていた。
例えば練習を1ターム120分間やる場合、別に開始からではなく途中から参加しても構わないし、気分が乗らないならいつ帰っても自由なのだ。それにここのジムは常時最新ロックのBGMが流れているので、ノリ良く自由気ままに練習が出来る。
ジム自体の設備は旧式で、シャワーやエアコンの無い所は難点だが、他のジムとは違い広めの空きスペースが有ったり、各所に鏡が張ってあるのでシャドーボクシングがやり易く、廻りとの接触を気にせず自分のペースでやれるのだ。
あとはサンドバッグが20本以上吊(つ)ってあるし、より実戦的なダブルパンチングボールが複数設置されているから、それらの順番待ちが全く無いとくる。
正春は元々ボクシングでプロになる積(つも)り等さらさらないが、対戦相手をダウンさせたり KOを狙うといったボクシング特有の真摯(しんし)なスタイルに価値を見出(みいだ)していた。なので一般ジムのマシーンやバーベルを使った筋トレとか、中途半端にスタジオ内でやるボクササイズでは物足りなさを感じてしまうのである。
奥まった突き当たりには特設リングがあって、プロを目指す者はそこで他の練習生とは違う別メニューでトレーニングする。又プロライセンスを持つ者や日本チャンピオンクラス達は、試合直前になるとそこで特別な専属トレーナーが付いたりするのだ。