この物語は、著者が大学浪人時代に書き綴った草稿を修正して近年完成したものである。
邂逅
1980年頃から東洋一の歓楽街といわれてきた新宿歌舞伎町に、おびただしい数の原色ネオンが灯り出す頃、建物の外観が全面黒ガラスで覆(おお)われたスワンプビル6階にあるディスコ【フィナーレ】のオープニングが刻々と迫る。
広めに設けられた1階のエレベーターホールには、仲間とジャレ合って意味もなく声高(こわだか)に喋(しゃべ)るチャラい奴がいたり、何組かのグループがうんこ座りで地べたに置いた缶コーヒーやコーラを飲んだりタバコを吹かしている。
また得意げにリーゼント髪をジェルで光らす男の姿や、タイトな服を身に纏(まと)いワンレングスの髪を思いっ切り掻(か)き上げながら笑っている女子のグループがやたらと目に留まる。
そんな中、気合の入った顔付きで爽颯(さっそう)と歩いて来る3人の男がいた。中でも目を引く男が「瀬川正春(せがわまさはる)」だ。一見(いっけん)すると上背(うわぜい)がある細身といった身体だが、実は日本刀さながらの鍛錬された鋼(はがね)の肉体が内に潜んでいたりする。
正春の左頬(ほほ)には目の端(はじ)からアゴにかけて稲妻(いなずま)の様な疵痕(きずあと)がある。幼少時に起きた交通事故が原因だ。
そのせいなのか、見る者を時に威圧し無言にさせる迫力があった。元来の飄々(ひょうひょう)としたヤサ男風な甘い顔立ちと、この荒々しい疵とのアンバランスが、何処(どこ)か男の哀愁(あいしゅう)さえ感じさせるのだ。