そう不安視すると同時に、彬は決意した。
(私も退職する時には、学生達から惜しがられる教師になりたい)
彬は、あの離任式での出来事を思い出し、これから二年間を全力で走り抜き、区切りがついたところで退職しようと決めていた。つまり彬にとって最初で最後の担任を意味する。
もちろん、このことは誰にも言っていない。
式典
濃い雲の切れ間から春の暖かい日差しが、誰もいない駐車場に立つ桜の古木に当たる中、今年もこの校舎は入学式の日を迎えた。
この地に来てから二度目の春。彬は、朝の清掃を行うため、いつものように朝六時には到着していた。
一見生真面目な性格に見える彬だが、職場内での自分への評価は生産性や効率化によって左右されると思い、就職してからの一年間は、校長の野間や科長の須田や山中からの指示、そして同じ福祉介護科に所属する小島櫻子(こじまさくらこ)と河野美寿々(こうのみすず)の指示に忠実に従っていた。
ちなみに、年齢が五十代の小島と、四十代の河野は、介護福祉士としての経験年数は小島の方が一回りほど長いが、二人とも特別養護老人ホームでの経験を活かし、介護技術などの科目を担当していた。
職場での意気込みを強調するため、彬は健康や自分の生活を度外視して、時には夜遅くまで、そして、日曜日以外毎朝欠かさず校舎内の掃除を日課にするほど、仕事を優先してきた。実際は、帰宅しても暇を持て余し、特にすることがないだけだが。
面接の時に初めて会った男性は長坂竜聖(ながさかりゅうせい)といい、結果的に、彬と一緒に採用された。長坂もまた、彬と同じく、初めて保育科一年のクラス担任をすることとなった。
ただ何事にも一生懸命だが、その一生懸命さが報われず不器用な彬と違い、もともと多才な長坂は、週末になると毎週のように地元のライブハウスなどでバンド演奏にギターで参加し、バイクでツーリングをするなど興味があれば様々なことを体感し、多趣味、多芸であった。その趣味を活かし、愛用の一眼レフカメラを職場に持参し、学校行事の様子を撮影したりしていた。
非常に想像力に富んでいる長坂は、仕事上、独特な視点で工夫して問題を解決するため、何かアイデアを思いつくと彬に対して提案、改善点を指摘する。