【前回の記事を読む】抜き打ち検査で発覚した、女力士の薬物使用…相撲部屋の名を汚した力士は、本場所出場停止に加え、破門処分となり……
三
不戦勝で代理の女力士と取組むことになり、負けても右近の全勝優勝が確実だが、大関が初土俵の相手に絶対に負けられないし、負けるつもりも右近には無かった。千秋楽、しっかり勝って締めなければならない。
花道で出番を待つ右近達に、先程、紫式部との取組を制した清少納言が声を掛ける。
「引火しても、おかしくないくらい酒臭かった」と言って笑っていた。
千秋楽結びの一番、太鼓の音を伴奏にして、右近は雷子を引き連れ花道を土俵へ向かう。
土俵の向かい側に居たのは、やはり、西洋人にしか見えない背が高く美人の女力士であった。かなり細いが、骨は太いので力はありそうだと思った。
四股名は「赤染衛門(あかぞめえもん)」である。男のような四股名である。
右近は思った。あなたも酷(ひど)い四股名をつけられたのね。
私も「ウコン」なんて四股名、嫌だった。酔っ払い天国の女将さんには似合いの四股名だと思うけど。プレゼントで来る物も黄色い物ばっかりだし、四股名って途中で変えること出来ないのかしら。
土俵の中央で、お互い蹲踞(そんきょ)し向かい合う。
立ち会いで、赤染衛門の強烈なぶちかましが炸裂する。
彼女の肩が右近の頬に当たり、口の中に血の味が広がる。こんな強いぶちかましを受けたのは久しぶりだ。
当然のように土俵際まで押される右近。
途中で、右近と赤染衛門の視線が合う。瞬時に赤染衛門は土俵際で持ち上げられることを思い出したのか、海老が跳ねるように後へ逃げた。
右近も摑んだ廻しから手が離れると思い、前へと動いた。だが、右近の動きの方が赤染衛門より速かったので、右近の左足の踵と赤染衛門の右足の踵がぶつかり、赤染衛門は派手に尻餅をついて倒れた。
右近は、不本意な勝ちに「やってしまった」と思ったが、素知らぬ顔で勝ち名乗りを受けた。
土俵を降りたところで、雷子から「結果オーライです。足技もあると思わせておきましょう」と言われた。やはり、雷子にはお見通しであった。
右近は、四度目の全勝優勝を果たして本場所を終えた。