本降りとなった、本場所千秋楽終了後の帰りの車中で、右近は道長から小式部内侍のことを聞いた。

一ヶ月程前に、部屋から外へ出ようとしていた道長を、道路を挟んだ向かい側で小式部内侍が待っていた。

刺すような視線を感じて、道長が振り向くと視線が合い「あいつを選んだことを、お前ら全員に後悔させてやる」と小式部内侍に吠えられた。

一瞬、訳が判らず固まった道長だったが、咲を引き取る際に、もう一人、別の女の子も引き取って欲しいと言われた時のことを思い出した。

二人を引き取るのは無理なので、女将と道長が二人を見比べて決めることにしたのだ。

笑顔で愛想を振りまくその少女に比べ、咲はカーテンに隠れこちらをじっと観察しているのみであった。

こちらに引き取っても、貧乏生活を送ることは明らかなので、他で引き取ってもらえなそうな、咲を引き取ることに決めたのであった。

あの時の娘だ、間違いない。

道長は探偵を使って、小式部内侍のことを調べた。

彼女は、その後に裕福な家庭に引き取られたが、幸せな時は短く、夫婦の双方から虐待されることになり、学校でも教師を含めた虐(いじ)めに遭うようになった結果、中学生の途中で家出し、チンピラのような男達と同棲しながら、自分を虐めた者(育ての親、教師、同級生)に復讐を果たしていた。

その時に、咲が女力士になって活躍していると聞き、そもそも、自分が不幸になったのは、あの幽霊みたいな女のせいだと思い込むようになり、女子格闘技の団体で、対女力士用に特訓を重ね、右近を倒したいと思い続けていたが手詰まり状態だった。

そこで、柊部屋へ売り込みに行き、その技量を柊部屋女将に認められ、一場所だけの出場という契約で、柊部屋の女力士として本場所に上がることになったのだ。

全勝同士で千秋楽に右近と取組めるように、部屋の女力士達だけでなく、他の三つの部屋にも協力してもらって、小式部内侍が勝ち続けるように仕組んでいたことも判った。

道長は、千秋楽の取組で、小式部内侍が復讐の為に、土俵で何をするのか判らなかったので、最悪、取組を阻止することも画策していたと打ち明けた。

流石に、女相撲協会が実施したドーピング検査は、道長がどうこう出来るものではないので、小式部内侍とは戦えない運命だったのだろう。

静かに話を聞いていた右近は、雨で歪んだ景色を見ながら、小さく呟いた。

「それでも、小式部内侍と戦いたかった」

 

千秋楽の翌日に、事件が二つ起こった。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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