この人たちは、この町の若者が死んでも悲しくないのか、戦場で死ぬことは名誉なこととしか思ってないのか。もし自分の息子が戦死したら、そんなことを言っていられるのか。源次郎は彼らの本当の気持ちを知りたかった。
背の低い源次郎は列の先頭にいた。葬列の最前列の真ん中に居る白い着物の女性が気になり、彼女の表情をじっと見ていた。彼女は時折目頭をハンカチで押さえる。涙を拭いているのだ。悲しければ声を上げて泣けばいいのにと思った。けれど彼女は泣き顔を決して見せなかった。葬儀会場から出て行く時も同じだった。
源次郎は腑に落ちなかった。
自分は家族の誰かが亡くなれば悲しくて泣くだろう。この母親は何故泣かないのだろう。大人は人前では泣いてはいけないものなのか。
源次郎はそう感じた。
それから一週間も経っていなかった。
外から帰って来た源次郎の母親の絹が祖母と話をしているのを聞いた。
戦死した出兵兵士の家に亡くなった兵士の母親と仲の良い友人が弔問に行くと、亡くなった息子の話をしている途中、式場で涙を見せなかった母親が突然泣き崩れたということだった。大人は人前では泣かないから、我慢強いと思っていた。だが母親は泣いた。それも崩れる程に。それが本当の母親の姿なのだ。母親が流した涙は、息子さんへの強い思いが込められている。
絹が言うのが聞こえた。
「私も源次郎が戦死すれば思いっ切り泣きます。源次郎は私にとって大事な子で、あの子を愛していますから」
源次郎が初めて愛という言葉を聞いた瞬間だった。
母ちゃんは俺のことをそこまで思っていてくれる。相手のことを大切に思う気持ちが愛。
胸の奥から温かいものが溢(あふ)れ出て彼の胸を熱くした。