第一部 幼少期

美しい涙と汚れた涙

最初の棺は誰も戦争と呼ばなかった頃に届いた。

白木の箱の冷たさだけが、この国の言葉より先に真実を告げていた。

その時はまだ戦争が始まったと誰も思っていなかった。政府は、これは戦争ではない事変だと言っていた。

だが、町出身の一人の若者が満州で戦死した。

彼は町の人から、「しっかり務めてくるのだよ」と日常の挨拶のように通りで声を掛けられ出兵し、彼も、見送った方もこれは兵役の一環で、またすぐ帰ってこられると軽く考えていた。

それが、白木の箱に入って彼は帰って来た。町葬が行われ、会場の公会堂の前に作られた祭壇の中央にその箱は白い布で覆(おお)われて置かれた。中身は彼の遺骨ではなく戦地の土だった。そのことを知っているのは参列している軍人と彼の家族だけだった。

参列者は戦地の土に礼拝した。

祭壇に向かって左側に源次郎を含め尋常小学校の児童が立っていて、教師の先導で『海ゆかば』を歌う。

町長、校長、在郷軍人会の代表が挨拶をする。皆戦死した兵士を英霊と呼び称え忠節と言う言葉を使って彼の死を表現した。

「ご家族にとって名誉で、町にとっても名誉だ」と称賛する。

悲しみを表す言葉は一つも出てこない。