【前回の記事を読む】娘の誕生日に、元妻と3人で食事をする予定だったが…当日、花束を持った男が駅から飛び出してきて——
私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~
思い出の中で
成功とわかった以上、もう帰ってもよかった。私は昔のビデオを生で見ているような不思議な感覚に興奮していた。
もうしばらく、あの日の時間をリアルに感じたい。私はゆっくりと旋回しながら三人が靴屋に入っていくのを見届けると、先回りしてレストランの向かいの公園までやってきた。
人影のないことを確かめ、静かに降下する。
店の入口が見える木陰で待っていると、賑やかにしゃべりながらも速足で坂道を登ってくる三人が見えた。
元妻は手に持った白い箱を気にしている。ケーキが入っているのだろう。私は来ていたコートを脱いで腋に抱えている。冷汗と汗を相当かいていた。
カウベルの音がして三人がレストランの中に消えると、私は庭のほうに移動した。
大きな窓から明るい店内が見える。中央にしつらえられた丸いカウンターには、高いコック帽をかぶったシェフがいて、そこに案内された。少し話した後、三人は娘を真ん中に背もたれの高い木の椅子に座った。
シェフが本日のメニューを説明しているのだろう。背中越しに娘がにこにこしながら聞いているのが見える。
正装したウェイトレスが水を順にサーブする。シェフは下を向くと、へらのような両手のスパチュラを器用にさばきながら調理に入った。ここからはリズミカルな金属音は聞こえない。
コースが進み、三人はどの料理もおいしそうに味わい、会話を楽しんでいるようだ。何を話したかまでは覚えていないけれど。
いよいよメイン、あのシーンだ。夢の中の自分のお腹も鳴った。
シェフは最初に娘の前に切り分けたステーキを置き、丁寧に勧めた。娘がひと切れつまんで口に入れる。目を見張り、何度かかんで目を丸くする。シェフを見て、次に口を開けて両側の私と母親に見せて笑った。作り笑いではない、幸せそうな笑顔だった。