私が家を出たとき、娘はまだ幼かった。彼女が外出している間に、まとめておいた荷物を家のワゴン車に詰め込んで搬出した。

家電や家具は新しく買ったし、荷物は思いのほか少なかった。近所の人はキャンプにでも行くのかなくらいに見ていただろう。

荷物を新居に運び終えると一旦戻って最後の夕食を共にし、娘が寝静まった深夜に家を出た。見上げた星空がとても高く見えた。

翌朝起きて私がいないことに気付いたとき、彼女は母親に何て言うだろう。どう説明するかは任せることになっていた。娘と母、二人だけの日常が始まった。

元妻は「パパは転勤になったから、あなたが会いたかったら週末には会いに来てくれるよ」と説明したようだ。本当に親しい近所のママ友以外にもそれで通したという。

しかし娘も次第に違和感が重なり、両親の異常事態に気付き始めた。

母親は覚悟を決めて、娘を膝の上に座らせて事実を話したそうだ。

娘が一番ショックだったのは、自分の知らないところで両親が離婚していたことだった。泣きながら「もう嘘をつかないって約束して」と懇願されたそうだ。

元妻から話を聞いて、娘の言葉を二人で噛み締めた。私は娘から今後何か聞かれたら、秘密なしに全部話そうと心に誓った。

彼女は二人になったことが寂しかったのではない、本当のことを知って自分で考えたかったのだ。

彼女の言葉は、私の心の奥にずっと刺さったままだった。

同時に親が勝手に出した選択が、彼女の幸せを奪ってしまったのではと自分を責めてもいた。

とはいえ、元妻と何度もぶつかり話し合った末に出した結論は今さら変わるはずもない。そのまま夫婦を続けていても、嫌なやりとりを毎日見せてしまうことになっただろう。

娘はその後、近くの中学に進んだ。一年、二年と友だちはできただろうか。クラスメイトとはうまくやれているだろうか。いじめられたりしていないか。

元気に家を出て、元気に「ただいま!」と帰宅して、母親に今日あったことを楽しそうに話しているだろうか。自分には直接確かめようもない。

私は彼女が本当はどんな気持ちで日々を過ごしているのか知りたかった。

ステーキを口に運んだときの笑顔を確認すると、私は少し安心したのか、娘のケーキを前にした写真にたどり着く前にノンレム睡眠の深い淵へと落ちていた。