父さんとそんな関係になってから、ミッちゃんは私たちにとっての母さん以上になろうとしているのが子どもの目にも明らかで、二十二歳の純情娘にとっての不倫関係はいささか酷というものだったのだろう。けれどもミッちゃんは私たちを自分の子どものようにかわいがってくれた。いつも一緒に遊んでくれては身の回りの世話を細々と焼いて、
「サトシちゃんが食事を全部食べてくれたのよ!」と嬉しそうに父さんへ報告しては、「実の母親はそんなことでいちいち喜ばないんだよ!」などと酷い言われ方をされていたことを薄らと覚えている。それでも奥さん気分を味わいたい気持ちの方が強かったのだろう。ミッちゃんは父さんを好きだったのだ。
タエが生まれて帰京した母さんはすぐに二人の仲に気がついた。父さんとミッちゃんを激しく責め立てたが、父さんはただ面倒くさそうにしているだけだった。当然、すぐにミッちゃんはクビを言い渡された。
その翌日、ミッちゃんが私を連れ去った。
なごり雪が舞い散る寒さの中で、ミッちゃんにおんぶされた背中で目を覚ますと、私は浅草の遊園地「花やしき」のメリーゴーランドの前にいた。幼心にも違和感があったけれど、ミッちゃんが「今日は花やしきで思い切り遊ぼう!」と言うので、すぐにワクワクしてきた。ミッちゃんはいつもよりも優しくてなんでも買ってくれた。ソフトクリームを二人でなめて、乗り物も次から次へと乗せてくれた。
とても楽しかったのだが、時折、彼女の表情が曇るたびに、私は胸の中がぐるぐると何かにこねくり回されて痛くなった。「帰りたい」と言うと、ミッちゃんが「ねぇ、海へ行ってみない?」と、再び私をおんぶして東京湾の台場へ連れて行った。長い間海を見つめていたミッちゃんが突然、思い切ったように黙って海へ向かって歩き始めた。
「ミッちゃん、ユカ、帰る、帰る」。私が泣き始めても歩みを止めずに腰まで水に浸かっていった。おんぶされた私の足先も濡れて、凍えそうな寒さの中で私は体験したことのない恐怖を感じた。
「ウチに帰る! 寒い! 寒い!」
私は出せるだけの声でギャアギャアと泣きわめいた。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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