サトシがいなくなると、間もなく母さんは私を妊娠した。女優の「ユカカヨコ」が好きだった父さんは、「カネシゲカヨコ」じゃ語呂が悪いと私の名前を「有香」と名付けた。

二人の子どもの親となった父さんは、大学を卒業すると大手生命保険会社で営業マンとして、がむしゃらに働き始めた。生命保険の営業職はこの頃とても嫌われる職業だったようで、個人の家へ飛び込めば「家族が死んだら金がもらえるなんて! 縁起の悪い話をするな!」などとひどく毛嫌いされて、父さんは訪問した先の家人からバケツの水をかけられたことがあるような時代だった。

履いている靴がひと月もしないうちに穴が開くほど歩き回って個人宅を一軒一軒訪ねていっても、なかなか思うような成果を望めなかった。

そこで父さんは大きな会社のフロアへ潜り込み、大勢の人たちを営業先とする、「当時はまだ誰も取り組んでいなかった」方法で、まとまった成果を上げ続けることに成功した。まずは事務職の女性へお菓子や飲み物を配りながら雑談し、家族の誕生日やら悩みごとを聞きだしては情報を集める。

本人や家族の誕生日や記念日には、さりげなくお花や食べ物をプレゼントして、さらに親しくなる。時には相手の困りごとを助けたり、手伝いを買って出たりして、父さんは顧客をどんどん増やしていった。

「営業って仕事はな、お客様に喜んでもらって、自分を気に入ってもらうことから始まるんだ。商品を売ろうとしちゃあダメだ。自分自身を売り込め。買ってもらえるのは相手の役に立ってからだ。それからお客様との付き合いが始まるんだ」

父さんはよくそう話していた。段々とトップセールスの階段を上がり始めると、毎月のように「営業成績日本一」を叩き出してトロフィーや賞状、純金のカップなどが、毎月トラックで我が家に運ばれてくるようになった。こうした企業訪問は生命保険セールスマンのセオリーとして定着する新たな営業先の開拓方法となった。

 

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父の不倫相手が私を連れ去り、おんぶしたまま、海に向かって歩き始めた。「帰る!」と喚いても、彼女は止まらなかった。

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