一時間前、麻田は恵比寿の裏路地にある自分の店、あさだプロップ不動産で寝落ちしていた。

いつもの悪夢のせいで寝不足だ。そこに赤道が現れ、「歴史を感じさせるマンションを紹介してほしい」と言われた。しかも、置く物が多いから百五十平米は必要という。

信号で停止するとブレーキが軋んだ。

「レトロな車ね」

赤道は車内を見回した。とがめる口調ではなく、珍しそうに見ている。

「はい、親戚が個人タクシー辞めるとき、くれたんです」

「くれたって、タダで?」

「ええ。だって、走行距離四十万キロでしたよ」

「すごいの?」

「はい。地球十周です。十二年かかったそうです」

「あらそう。この世では時間かかるのね」

「……」

麻田はミラーで赤道を見た。赤道はフフッと笑い、

「変なお客さんと思ってるでしょう?」

麻田はあわてて、

「いえ、とんでもないです。ただ、この世以外あるのかなと思って」

赤道は真上を指さし、

「あるわよ、テンジョウカイ。この世より大事よ」

「テンジョウカイ……ですか?」

「霊界の上のほう。天の上のほうだから天上界。神様がおられるところ」

「はぁ……」

「天上界なら何万キロでも一瞬なの」

「そうなんですね……」

「魂は肉体に縛られないからね」

「はぁ……」

「こういうお話、お嫌い?」赤道は笑って聞いた。

「いえ、何もわからないですけど、興味はあります」

「あくまでも私の理解、という前提よ」

赤道はそこでいちど切り、窓の外を見ながら、

「魂はね、どこでも瞬時にいけるのよ」

「そうなんですね」気の利いた言葉が出てこない。

「えっと……、神様は魂なんですか?」

「そうね、御霊(みたま)だから魂と言ってもいいわね。人も死んだら魂よ」

「じゃあ、人もその天上界へ行くんですか?」

「すぐに行ける人は少ないわ」

「え、じゃあ、行けない人は?」