【前回の記事を読む】町内会にも同窓会にも「行かない」としか言わない高齢男性。妻が「みんな心配するよ」と言っても頑なに断る理由とは
孤独になるな
小森勝の家です。
「あんた、まだ寝てるの? いい加減起きなさいよ。まったく毎日ごろごろとジャガイモでもあるまいに寝てばかり。早よ起きて食事でもしたらどうなの」
杉代があきれた声で言いました。
「うるさい。お前の世話にはならん。寝たいから寝てる。食いたい時に食う。がたがた言うな」
「ふん、毎日ただ寝てばかりで威張るんじゃないよ、もうちょっとしっかりした人と思っていたけれど、今はただ食べてごろごろと寝ているだけ、家の事は何もせんし、まだ先は長いんだよ。何かやることないのかね。ふん、このごくつぶし」
「何だとー、ごくつぶしだと?」
勝は急にしょぼんとしました。
「考えてみればそうだよな。何だかつまらん人生だな。ああ、何だかつまらん。この先もうそんなに長くは生きられないし。何だかつまらんな。俺は何のために生きているんだろう。死にたくなってきた」
勝はよろよろと外へ出て行きました。
そこに一枚の凧がからまった一本の松の木がありました。
「あー、いい枝ぶりの木がある。あの枝なら大丈夫かな。あの木を使って死んでやろうか」
しばらく眺めていた勝はやがて家から梯子を持ち出し、木に梯子をかけて上りはじめました。
と、そこに小さな子供が駆け寄って来ました。
「おじいちゃん、ありがとう。凧をとってくれるんだね」
「おー、なんだ、なんだびっくりした。凧? ああ、あれかい、あんな所に凧がひっかかっている。そうか木に引っ掛けてしまったのか。よしよししばらく待っていな」
勝は木に上り凧をとってあげました。
「はい、ぼうや。凧だよ」
「ありがとう」
「ところでぼうや名前は何て言う?」
「僕、希(のぞみ)。凧を揚げていたけれどちっとも揚がらない。みんなから下手糞って笑われる。おじいちゃん凧揚げられる?」
「さあて。昔は良く揚げたが、今はどうかの」
「揚げて、揚げて」希がせがみました。
「どうかな、面倒くさいが」勝は少し渋りました。
「揚げて揚げておじいちゃん」
希に強くせがまれ、
「しょうがないな。どれ貸してごらん」と、勝は凧を持ち上げ、空へ向かって揚げました。
凧がするすると揚がり、やがて遠くの空にぽつんと凧が浮かびました。
「わーい、おじいちゃんすごい。あんなに揚がった、おじいちゃん名人だね。
わーい。すごいすごい、凧揚げだ。凧揚げだ」
「高く揚がったな。そうだ希ちゃん、こまは回せるかい?」
「こま? 僕知らない」
「そうか。じゃあ希ちゃんこっちへおいで」
勝は希を連れて家に戻るとこまを作りました。
「さあ回すぞ」
勝が操作するとこまは勢いよく、ぐるぐると回りました。
「わーいすごい。これがこまか! 回ってる。おじいちゃんすごいね。手品師みたい。名人だー」
「手品師に名人か。そう言えば昔はよく凧揚げもしたし、こまも回したな。
だれにも負けんかった。そうそう煙幕造とはよく勝ち負けを争ったな。
そう言えば煙は元気にしているかな。一度顔を見に行ってやろうか。
「おじいちゃんありがとう。また来ていい? また遊んでくれる?」
「いいとも。希ちゃん毎日でもおいで」