「私の名前は琴音。あなたは誰さん?」
「構わないでって言ってるの。お願いだから」
「なんか会話が成り立ってないな。私はね、ちっとも怪しくないの。ほら……」
そのとき私は誰かに後ろから右腕を掴まれた。くるりと腕を捻られて、私はそのまま膝から崩れるしかなかった。
「あ、痛痛痛……。やめ、やめれ……」
忽ちギブアップ宣言すると、ようやく私は解放された。
私のすぐ後ろに立っていたその人は背が高く、なかなか体格のいい女性に見えた。こんがりと焼けた小麦色の肌に、ウェーブのかかった長い髪が特徴的だ。猫のような円(つぶ)らな目が印象的でもある。足首まであるグレーのロングスカートを纏っている。
「弱い者虐めしたらあかん」
「はい? その台詞、あなたが言う?」
私は痺れの残る右腕を左手で擦った。暴力は反対だ。
「私はこの娘にただ名前を尋ねてただけで、だよね?」
振り向くと、構ワナイデちゃんはいつの間にか私の側から姿を消している。どうやら逃げ足は人並み以上に速いらしい。
「いや、ほんとに誤解なんだってば。あの娘にただ挨拶を……」
振り返れば、関西弁も私の視界からいなくなっている。
はあ……。
先が思い遣られる。そして現にこれは私の身に降り掛かった不幸の序章でしかなかった。
§
私が連れてこられたこの建物は円形の構造になっていて、時計の文字盤のように十二個の部屋がある。そして文字盤の中央が広場になっていて、噴水を模したオブジェがある。
あたかも本物の水が噴き出し、二、三メートルほどの高さで落下しているように見せ掛けた洒落た作品だ。
噴水を取り囲むように、色々な形の椅子とテーブルが無造作に置かれている。長椅子もあれば、ロッキングチェアもある。私達は好き勝手に自分のお気に入りの椅子を見つけて腰掛けた。
私達……この建物内にいるおそらく全員と思われるが、噴水広場に一堂に会していた。ざっと数えると、九名だ。
九名にはどうやら共通点がある。一つには、年齢層が同じということ。そして美人ばかりということ。奇跡と言ってもいいほどハイレベルな顔ぶれだ。手前味噌だが、私も外見では褒められることが多い。中身についてはどうか目を瞑って欲しい。
どうやら“奇跡の美人リスト”みたいなものがあって、条件に適う人が強制的に集められた節がある。首都圏直下型地震に遭い、私は偶然、RES9と書かれたミニバンに乗車したが、あれは偶然ではなく計画どおりなのかもしれない。GPSでずっと追跡されていたりして。
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首都圏直下型地震による被災後、9人の女性が隔離施設へ閉じ込められた。互いの名前すら知らない私たちに共通していた認識は……
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