当時、私は二十歳だった。

あのような凄惨な事件に巻き込まれるとは、思いもよらなかった。

川原琴音

問題篇

COUNT 9 エ

 
 

はっ!

私はベッドから飛び起きた。

なぜなら目が覚めたら、そこが見慣れない場所だったから。

ビジネスホテルの一室に感じられた。さほど広くもない部屋の中央にベッドがあって、テーブルやクローゼットなどが適当に配置されている。隣にも部屋らしきものがあるが、おそらく洗面所、トイレ、バスルームに違いない。

ただし普通のビジネスホテルとは明らかな違いがあった。部屋には窓が一つもない。窓がないと光が射し込まず、閉塞感、圧迫感みたいなものを感じてしまう。

「ここ、どこ?」

心当たりがない。泥酔して誰かに心配でもされて、ホテルまで運ばれたとか? 慌てて記憶を手繰り寄せようと奮闘してみる。

「おお、そうだ!」

地震だ。南海トラフだかなんだか知らないが、近頃とにかく揺れの激しい地震が頻発している。

今回も震度五、六程度の首都圏直下型地震に見舞われ、都心はちょっとした騒ぎになった。秋葉原界隈で働いていたが、心配性の私は仕事を切り上げて避難所を求めてうろうろと彷徨(さまよ)った。

ちょうどそのとき車体に“RES9”と書かれた救命(RESCUE)目的のミニバンが通り掛かり、近隣の空いている避難所まで案内しようと運転手に誘われた。

一度断ってはみたが、秋葉原の周辺の避難所はすべて満杯で休憩できる場所はないと進言された。結局、私はRES9の世話になったが、その後の記憶がない。

「いや、どこなのよ? どこだっちゅうの!」

前屈みになり、スリッパを履こうとして躓いて倒れた。お笑い芸人でもここまで華麗にズッコケられまい。というか痛い。

額を片手で撫でながらクローゼットの一つを開けてみた。

段ボール箱が山積みになっている。試しにいくつかの箱の中身を確かめてみた。

衣類が入っていた。トップスもあれば、ボトムもランジェリーまで揃っている。偶然なのか、服のサイズは私にちょうどいいものばかりだった。

「避難所かな?」

衣類一つを取っても、それにしてはサービスが行き届き過ぎている。ひとまず段ボール箱をもとに戻した。